研究課題/領域番号 |
17H02758
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
大崎 寿久 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所, 人工細胞膜システムグループ, サブリーダー (50533650)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / 脂質 / 蛋白質 / 生物・生体工学 / バイオ関連機器 |
研究実績の概要 |
生体膜に存在するイオンチャネルはイオンを選択的に透過させることで、細胞における膜電位形成やシグナル電位発生等の役割を担う。重要な創薬標的だが、従来の電気計測技術であるパッチクランプ法は熟練・専門性を要求するため、イオンチャネル研究分野の発展を阻害していると考えている。研究代表者らは、油中の2つの水滴界面に脂質二重膜を作る「人工細胞膜」を利用したイオンチャネル1分子電気計測システムを提案し、研究開発を推進している。すなわち、両親媒性の脂質分子が油水界面に単分子膜を形成する性質により、2つの水滴界面に脂質二重膜(人工細胞膜)が形成されることを基盤としている。本研究では、人工細胞膜システムの構成要素である脂質分子・油相・水相、およびマイクロチップの各材料物性を理解しながら、液滴界面での膜形成や膜融合、安定性等の理論基盤を構築することを目指す。これにより、自律的膜形成とチャネル機能評価を可能にするデバイスを製作し、提案する人工細胞膜システムがイオンチャネル1分子機能の計測・解析において広く利用されるための理論的・技術的基盤を形作ることを目標とする。 液滴接触法による人工細胞膜の形成では、油水界面における脂質単分子膜の自己組織化の速度を考慮せず、単分子膜形成が不十分な状態で水滴が接触すると水滴同士が融合し膜形成はできない。また、液滴同士の接触状態は、油中水滴の表面張力や静水圧などによって支配される。そこでまず、人工細胞膜形成に及ぼす脂質、油、水溶液組成の影響に関する基礎的検討を開始した。脂質や油相の構成により液滴の接触界面の張力が変化し、膜形成の成否に大きく影響を及ぼすことを明らかにした。また、形成された脂質二重膜の維持を目的として、液滴を保持するマイクロチップの表面性状とサイズに関して検討を行い、理論的な指標を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究計画目標を概ね達成できているため。 材料物性とチップ構造にもとづく人工細胞膜形成過程の制御においては、液滴接触界面における張力に及ぼす脂質分子・油相の影響を観察し、張力と人工細胞膜形成との関係を実験的に明らかにすることができた。また、その張力に応じてチップ構造を改めることで膜形成を達成できることも確認した。 化合物スクリーニング制御技術においては、人工細胞膜を安定に保つためのチップ構造とチップ材料に関して研究を行った。人工細胞膜の安定性には、2つの液滴自体の安定性が関わることが分かっているが、液滴の安定性は液滴のサイズに加えて、液滴が接するチップ表面の性状に依存することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は、油中水滴界面の物理・化学を理解することで、実用的な人工細胞膜システムを創るための理論的基盤の構築に向け引き続き研究を行う。 初年度より行っている液滴接触界面における張力に及ぼす材料物性・チップ構造の検討を継続して行う。液滴を構成する要素が及ぼす物理化学的影響について体系的理解を進め、液滴量やチップ構造に対する理論的基盤を固める。また、イオンチャネル導入技術に関してもプロテオリポソームと人工細胞膜の融合促進技術に関する検討を開始する。化合物スクリーニング制御技術については、融合促進技術を応用した液滴内の撹拌技術について検討を行う。
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