生体膜に存在するイオンチャネルはイオンを選択的に透過させることで、細胞における膜電位形成やシグナル電位発生等の役割を担う。重要な創薬標的だが、従来の電気計測技術であるパッチクランプ法は熟練・専門性を要求するため、イオンチャネル研究分野の発展を阻害していると考えている。研究代表者らは、油中の2つの水滴界面に脂質二重膜を作る「人工細胞膜」を利用したイオンチャネル1分子電気計測システムを提案し、研究開発を推進している。すなわち、両親媒性の脂質分子が油水界面に単分子膜を形成する性質により、2つの水滴界面に脂質二重膜(人工細胞膜)が形成されることを基盤としている。 これまでに、人工細胞膜の構成要素である脂質分子・油相・水相の組成により、形成される脂質二重膜の厚さが影響を受けることや、マイクロチップの材料表面物性・構造が膜安定性に及ぼす影響について研究を行ってきた。2019年度は、こうした研究成果に基づいて、分注ロボットを使用したイオンチャネル計測を試みた。ロボットを使用することで、再現良くマイクロチップ上に脂質二重膜を形成することができた。脂質組成に合わせて油相の組成も変化させることで、脂質二重膜を形成できることも明らかとなった。また、脂質二重膜に対してイオンチャネルを導入し、化合物のスクリーニングを実施した。これらの成果については、国際シンポジウムでの招待講演や、国内外での発表を通して公表を行った。 今後は、共同研究などを通して開発システムの展開を目指すとともに、観測データの解析技術についても研究を進めていきたい。
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