研究課題/領域番号 |
17H02760
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
工藤 一浩 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (10195456)
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研究分担者 |
酒井 正俊 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (60332219)
岡田 悠悟 千葉大学, 先進科学センター, 特任助教 (50756062)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 強相関 / 相転移型トランジスタ / 金属-絶縁体転移 / 有機エレクトロニクス / フレキシブルエレクトロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、強相関有機材料の相転移を利用した新原理有機トランジスタの実現を目指して研究を行ってきた。約135Kにおいて金属-絶縁体転移が発現し、抵抗率が4桁ほど変化することが知られている有機電荷移動錯体α-(BEDT-TTF)2I3の単結晶を用いて、相転移型トランジスタを作製した。有機単結晶を用いて相転移型トランジスタの動作原理を実証するにあたり、新しい技術としてラミネーションコンタクト電極構造を導入した。ラミネーションコンタクト電極は、ガラス基板上にパリレンをコーティングし、4端子パターンを形成した後に基板から剥離することによって作製される。このラミネーションコンタクト電極の利点は、電極パターンの形成にフォトリソグラフィを用いるため、微細で精密な4端子パターンを作製できることと、それを単結晶表面に貼り付けることによって、4端子FET測定のような計測を実行できることである。有機電荷移動錯体の単結晶を利用したFET構造においては、4端子電極作製の技術的困難に加え、元々材料の導電率が高く、しかも結晶の厚さの制御が困難であることなどに起因して、FET動作の検証ができたのはごく限られた材料にとどまっていた。ラミネーションコンタクト電極の開発によって、より幅広い有機強相関材料に対して、相転移型トランジスタの動作検証を行うことができる。実際のラミネーションコンタクト電極はホール測定を想定した6端子パターンであり、より高度な測定への展開も可能である。このようなラミネーションコンタクト電極を用いて、α-(BEDT-TTF)2I3の金属‐絶縁体転移点近傍でのゲート電界の効果を調べた。抵抗率の温度依存性の測定において金属-絶縁体が明確に観測され、ラミネーションコンタクト電極の有用性が低温においても示された。ゲート電界の印加によって、金属-絶縁体転移に特徴的な抵抗率の変調が観測された。この結果によって、相転移型トランジスタの動作を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
技術的には6端子ラミネーションコンタクト電極の作製技術が完成し、低温下においても有用であることを示した。これにより、より幅広い有機単結晶に対して、FET測定を行うことができる。また、ホール測定をはじめとしたより高度な多端子測定に展開する準備が整いつつある。相転移温度近傍では、わずかな試料温度の揺らぎが抵抗率に大きな影響を与えるため、温度を安定させる仕組みや制御、ノウハウの蓄積が重要である。これまでの実験によって測定を安定化させるノウハウを蓄えてきた。 また、ゲート電界によって金属-絶縁体転移を示す相転移型トランジスタに特徴的なFET特性を観測した。FET特性は両極性特性を示し、ゲート電圧がしきい電圧を超えると急激に抵抗率が減少し、飽和する。解析してみたところ、ゲート電界によって注入される余剰キャリアの密度から期待されるよりもずっと大幅に、抵抗率が減少することが明らかとなった。このことは、電荷秩序状態にあるキャリアの局在性を、ゲート電圧の印加(余剰キャリアの注入)によって制御することが可能であることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
現状は、(1)金属-絶縁体温度が低い(140K近傍)ことと、(2)元々の抵抗率が低い材料であるため、ゲート電圧印加によって金属-絶縁体転移を誘起しても、実用デバイスの変調度としては十分でない点が課題である。本研究課題では、相転移型トランジスタの動作原理検証だけでなく、実用デバイスへの展開までを課題としているため、これらの問題を解消する方向で研究を推進する。(1)に関しては、金属-絶縁体転移温度がより高い材料を探索し、相転移型動作の実証を行っていく。(2)に関しては、結晶の形状制御や表面平坦性の確保、およびラミネーションコンタクト電極の表面処理などを通じて、実用デバイスに値する変調度の改善を行っていく。特にRFIDなどのターゲットデバイスに対して、有効な単結晶の成長および実装方法を検討していく。 相転移型トランジスタの物理的な動作検証を進めるため、電界誘起ホール測定や分光学的測定などを、他研究室との共同研究として実施する。また、強相関シミュレーション計算を行い、キャリア注入による電荷秩序融解の物理的な理解を進める。
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