研究課題
本研究は、独自の製法でスーパースピングラス(SSG)磁気ナノ微粒子を生成し、特に複素磁化率に注目しながら磁気的性質と熱エネルギー蓄積機構を明らかにするとともに、官能基や葉酸を修飾し、医療応用を可能にすることを目的としていた。Co-Zn フェライトについては、粒径が5-17nmのSiO2で被われた試料を作製し、磁気特性と交流磁場中での温度上昇の関係を詳細に調べ、さらにヒト乳がん細胞を用いてin vitro実験を行った。交流磁化率の虚数成分χ”の温度依存性の分析では、粒径が大きくなるにつれてχ"のピーク、ブロッキング温度TBが高温側にシフトしており、室温付近では8nmのものが最大値を示していた。つまりこの粒径が最も熱散逸効果が高いと考えられると予想されるので、それを実証するために、交流磁場中で発熱特性を測定した。予想通り、8nmの試料が最も温度上昇し、5分間で19度の上昇であった。この温度はがん細胞を死滅させるのに十分な温度である。実際に、この試料を用いてヒト乳がん細胞KPL-4を用いてin vitroのハイパーサーミア実験を行ったところ、がん細胞を抑制する効果を確認できた。同時に微粒子は毒性が非常にすくないことも明らかになった。Co-ferriteについて、粒径が4-34nmの試料について、MRIの造影剤としての効果を見るために、MR中でT2緩和測定を行った。その結果、顕著なT2短縮効果が確認でき、従来、MRIに用いられている造影剤の成分である鉄酸化物より、短いエコー時間で明瞭なコントラストが得られることが明らかになった。これらの成果はIEEE Trans. Magn.に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
本学に良好な磁化測定の装置がないため、測定データの取得が懸念されていたが、液体ヘリウムを購入することで、近隣の大学の装置を使用することができ、有意義な交流磁化率のデ精密測定を行うことができた。またMRの測定についても、医学系の研究協力者が効率よくデータを取得してくれた。これらの成果をまとめて論文に掲載することができた。さらに上記のCo-Znフェライトのハイパーサーミア実験の発展として、細胞死のメカニズムを明らかにする試みをしたところ、医学的に重要な意味を持つ、アポトーシスであることが明らかになり、大きな発見となった。また、医学応用に発展させるためには、水中(血中)での分散性が重要になる。遷移金属を含む磁性微粒子の分散性を良くするために、いくつかの試みを行い、分散性の向上を確認することができた。ひとつにはこれまでSiO2で覆っていた方法から、SiO2を用いず、その代わりにPEGを修飾する手法を考案し、作製方法を見出した。これにより、さらに表面修飾の可能性が広がることになった。
今後の研究の推進方策としては、微粒子の物理としてスピングラスや超常磁性微粒子とスーパースピングラスについて、緩和時間やスケーリング即などを用いながらその機構を明らかにしていく。TherapyとDiagnosticsの両者をそれぞれ深めていき、セラノスティクスの可能性を追求する。ハイパーサーミアについては、ディッシュを用いたin vitro実験から動物実験へ発展できるよう、研究分担者の医学系の研究者と相談しながら改良を加えていく。磁気微粒子の新しい生成方法についても、より手法の確立へ向けて試行錯誤を行っていく。PEG修飾により、グルコースを修飾することが可能になると考えられ、これにより、がん細胞に選択的に導入可能な磁気微粒子が開発できると期待できる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 8件、 招待講演 7件) 産業財産権 (1件)
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