研究課題/領域番号 |
17H02768
|
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
平本 昌宏 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 教授 (20208854)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 有機単結晶エレクトロニクス / ドーピング / 飛程 / 有機単結晶太陽電池 / 超低速共蒸着法 / バンド伝導 |
研究実績の概要 |
本研究は、ドーピングによるpn制御のバンド伝導有機半導体単結晶への適用を世界で初めて行ない、ドーピング有機単結晶太陽電池等の、新しい有機単結晶デバイスの動作を実証し、「有機単結晶エレクトロニクス」の基礎を構築することを目的とする。 昨年度、電子輸送性のナフタレン誘導体(NTCDA)単結晶において、単結晶基板に平行な横方向に、光生成した電子を数十マイクロメーターに達する距離を輸送して取り出すことに成功した。単結晶表面の電極間距離を変化させた際に、電子の飛程を越えた距離で光電流が急減する実験結果から、電子輸送可能距離である飛程を30マイクロメーターと決定できた。さらに、NTCDAの電子移動度が10-2 cm2/Vsであることから、1 cm2/Vs程度の高移動度有機半導体結晶を用いれば、1 mm程度の飛程が可能であると予測できた。この予想に基づき、電子移動度(1.7 cm2/Vs)とホール移動度(43 cm2/Vs)を示す2種の有機半導体結晶性薄膜を用い、ミリメータオーダーに達する電子飛程0.2 mm、ホール飛程0.4 mmを実測できた。この結果は、本研究の目標である水平交互積層型有機単結晶太陽電池が実際に作製可能であることを強く示唆している。 また、正孔に対してバンド伝導を示すルブレン単結晶に、アクセプターとして働く塩化鉄を、超低速共蒸着法によって1 ppmの超低濃度でドーピングすることに成功し、ドーピング有機単結晶作製の基本技術を確立した。 以上の結果は、「有機単結晶エレクトロニクス」の基盤となる成果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
バンド伝導性ルブレン単結晶にアクセプタードーピングできる結果は、ドーピング有機単結晶における、キャリア濃度、移動度をホール効果によって実測できることを強く示唆しており、これまで未開拓であった、ドーピング有機単結晶の性質を、次年度から詳細に探索できる。また、有機半導体単結晶膜において、マクロなミリメーターオーダーの飛程が、電子、ホール両方で観測できたことは、水平交互有機結晶を持つ多層接合有機単結晶太陽電池の実現に、大きく近づいたことを意味する。以上の結果が得られているため、当初の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
以上の結果を踏まえて、今後、以下の研究を推進する。 正孔に対してバンド伝導を示すルブレン単結晶に、アクセプターとして働く、塩化鉄のドーピングを行い、ホール効果によって、ドーピングによって発生したキャリア濃度、移動度を測定する。シリコンと同等の100%のドーピング効率が、有機単結晶においても可能なことを示すことを目標とする。 また、超高速移動度をもつ有機半導体単結晶膜の水平交互多層膜接合を作製し、キャリアをミリメーターオーダーのマクロスコピックな長距離で水平方向に取り出すことによって、太陽電池として動作させることを試みる。この太陽電池は、これまで有機太陽電池に必須であったバルクヘテロ接合が不要な、新コンセプト有機太陽電池と位置づけることができる。以上の研究を通じて、最終的に、「有機単結晶エレクトロニクス」の基礎を構築することを目指す。
|