研究課題/領域番号 |
17H02773
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深津 晋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60199164)
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研究分担者 |
安武 裕輔 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10526726)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ゲルマニウム / 共鳴電子ラマン遷移 / 光利得 / 量子閉じ込め / バレー選択励起 / バレー間散乱 / 円偏光フェムト秒励起相関法 / Germanane |
研究実績の概要 |
モノリシック三次元光集積回路の実装に向けてシリコン透明波長のSWIR領域に適合するゲルマニウム光機能素子への期待は依然として高い。ゲルマニウムの間接遷移端の直上に位置する直接端の活性化が注目を集めているが 、2準位バンド間遷移の利得が小さく、発光再吸収による損失の回避が課題となる。本研究は、直接遷移端蛍光を凌駕する発光特性を実現すべく、マルチバレー半導体ゲルマニウムの電子緩和ダイナミクスを支配するバレー間散乱を積極的に利用する点を特徴とする。これに駆動される電子ラマン遷移の選択的な光励起法を考案し、理論計算に基づいた励起波長と歪の制御を通じて共鳴電子ラマン遷移の発現条件を洗い出すことで光利得を示す負の吸収の発生を報告してきた。 本年度は、制御性の向上を目指して電子ラマン遷移とバレー間散乱との相関をより直接的に評価すべく、電子ラマン遷移の円偏光敏感な特性を利用して円偏光フェムト秒励起相関法を発案、超高速発光分光により時間領域におけるスプリットオフ正孔(SO)由来の電子ラマン遷移のスペクトル弁別を行なった。ゲルマニウムではバレー間散乱によりp型ドーピングが光誘起されるが、SO正孔の電子ラマン遷移のエネルギー領域においてΓ―L点間バレー散乱の時定数と矛盾しない顕著な負の相関信号の変化を観測した。また、n型ゲルマニウムの円偏光発光の超高速分光から電子スピン緩和時間が200 ps程度と見積もられた。高温領域での超高速分光は、励起光の繰り返し周波数と間接遷移蛍光の長い発光寿命が干渉するために困難となるが、今回、間接遷移由来の蛍光が抑制されるGe-on-Siを用いて明瞭な相関信号の室温検出に成功した。 一方、光利得発現に向けて光導波路と応力印加機構との親和性が低い問題が顕在化したためFabry-Perot型面垂直光共振器構造へと設計の方針転換を行なうとともにゲルマニウム近縁物質を活性領域に登用する可能性を積極的に模索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電子ラマン遷移介在の光増幅機能の強化を目指し、既定路線に則って光導波路の作製・導入を検討していた。しかし、ゲルマニウムのバンド構造を外部制御するための機械的応力印加機構と導波路とが設計通りには適合しないことが判明した。最終的にはゲルマニウムの鏡面加工による薄片化と金属反射鏡形成による面垂直型光共振器構造の導入によって問題が解決されることが判明したが、方針の決定までに時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
半導体光増幅器・レーザーを指向する上で光共振器は必須である。他方、今回の研究ではゲルマニウムの伸長歪制御が要件である。いきおい応力印加機構と光共振器との融合が最重要の技術課題となるが、冷却InGaAsアレイ検出器の復帰のために設定した繰越期間に解決の目処がたった。手順としては、真空・低温環境下で動作する小型ボイスコイル駆動の薄膜への応力印加専用ジグを設計・製作し、面垂直型光共振器に組み込んだゲルマニウムの電子ラマン過程由来の蛍光を機械歪の関数として系統的に追跡する。これによって誘導放出光発生に起因するスペクトルフリンジの観測に注力することが可能となる。
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