研究課題
モデル物質として新たにアスピリンを導入した。アスピリンは解熱鎮痛薬の一つであり、安定形(Ⅰ形)と準安定形(Ⅱ形)が報告されている。Ⅰ形とⅡ形は結晶構造が酷似しているために、多形制御が極めて難しい医薬候補化合物である。この物質に対して、フェムト秒レーザー照射によりⅡ形を選択的に得られる条件検討を行った。初めに、過去に確立した超音波印加法でⅡ形結晶を得ようとしたが、アスピリンの場合にはいずれもⅠ形が混在してしまい、溶媒媒介相転移という現象を経て、すぐにⅠ形のみになってしまうということが分かった。これは、アスピリンの安定形と準安定形の構造が酷似していることから、結晶化する条件範囲も極めて近いことが原因と考えられる。このような物質の場合、ごく少数(1~数個)の結晶を得て、確実に準安定形であるものを溶液相から選別する手法が好ましいと考え、キャビテーションバブルの数を精密に制御することができるフェムト秒レーザー照射法での条件検討に切り替えた。レーザー条件を中心周波数800 nm、パルス幅200 fs 、繰り返し周波数を1 kHzに固定してパルスエネルギーと照射時間を主要パラメータとして詳細検討したところ、パルスエネルギー1.5μJ/pulse、照射時間0.5 sの条件において、約48%の確率で、1~数個の単結晶を得られることが分かった。個々の結晶をラマン測定で同定したところ、結晶全体が均一なⅡ形結晶が得られていることが分かった。また、難溶性の薬剤候補物質結晶化に対応するために、融液成長するイブプロフェン[安定形(Ⅰ形)と準安定形(Ⅱ形)が報告されている]も新たなモデル物質として導入した。融液からの除冷法を検討したところ、Ⅰ形の結晶化が主に起こった。容器内にテフロンをテンプレートとして設置し、その上で除冷法を行ったところ、結晶化確率の向上と、Ⅱ形の優先的核形成(0℃)に成功した。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、フェムト秒レーザーによる結晶多形制御の条件件探索について実施予定であった。これまで用いてきたモデル物質よりもより制御が困難なアスピリンについて、多形制御を実現できるレーザー照射条件が明確になったため、研究はおおむね順調に進展している。アスピリンで確立した条件検討の手順およびパラメータの調整方策は、他の薬剤候補物質にも適用できるものであり、特に結晶構造が酷似した多形を有する場合に有効である。また、融液成長するイブプロフェンの結晶化検討も行い、表面の性質が異なるテンプレートを環境中に導入することで、準安定形結晶化が実現することが分かったことも大きな成果である。
イブプロフェンを用いた核形成実験では、表面の性質が異なるテンプレートの存在で準安定形が選択的に起こることが明らかになった。また、結晶化確率についても除冷法0℃において、Ⅱ形結晶化確率は0%から100%になるなど飛躍的に向上している。今後は、このような表面状態が異なるテンプレートとフェムト秒レーザー照射技術の組み合わせにより、さらに準安定形結晶の結晶化確率を向上させる予定である。溶液成長するモデル物質(アセトアミノフェン、インドメタシン、アスピリン)については、これまでに核形成が実現しなかった低過飽和環境下において、テンプレートとフェムト秒レーザーのハイブリッド技術で核発生確率が向上できるかどうかを検討する。この時、固液界面(テンプレートと溶液の界面)、および固気液界面(テンプレート、溶液、気相の界面)などの場を重視する。融液成長するイブプロフェンにおいては、冷却温度をより高い温度(核形成が起こらない10℃前後)に設定し、固液界面(テンプレートと融液の界面)にレーザー照射を試みて核発生確率の向上を目指す。また、フェムト秒レーザー照射時に発生するキャビテーションバブル周辺の濃度変化を観察するために、干渉顕微鏡の導入を進める。
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Applied Physics Express
巻: Vol.11 ページ: 035501-1~4
https://doi.org/10.7567/APEX.11.035501