研究課題/領域番号 |
17H02775
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷川 繁彦 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (50189528)
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研究分担者 |
薮内 敦 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (90551367)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エピタキシャル成長 / 窒化物半導体 / 空間分布制御 / 結晶構造 / 磁気特性 / 陽電子消滅法 / 低速陽電子ビーム / 原子空孔 |
研究実績の概要 |
1.希土類添加III族窒化物磁性半導体を再現性良く形成する上で,磁性元素である希土類(RE)イオンの空間分布解析と制御が不可欠である.RE元素としてGdとTbに焦点をあて,ランダム分布型試料,2次元ならびに3次元規則分布型試料をプラズマ支援分子線エピタキシー(RF-MBE)法でGaN(0001)上に形成し,次の知見を得た.これらの結果は,磁性原子の空間分布と磁気特性との間に相関があり,磁気特性制御向上にその空間分布制御が重要であることを示唆している. (1)ランダム分布型:GaTbN薄膜では,10%程度までの高濃度添加が可能であり,Tb濃度増大にともない強磁性成分も増大する傾向を示した.このTb濃度領域では,強磁性的振る舞いを示す電子準位がGaNバンド端近傍に形成されることが明らかとなった. (2)2次元規則分布型:GdNとTbN層厚を1分子層(ML)として形成したGdN/GaNとTbN/GaN積層構造では,GaNと同じ4面体配位のGdNとTbNが形成されていることが明らかとなった.Tb平均濃度が4%程度のTbN/GaN積層構造において,(1)で述べた電子準位が観測された. (3)3次元規則分布型:GdN/GaN積層構造において,GdN層厚を1MLに固定して,GaN層厚を変えて作製したところ,15MLまでは形成可能であり,GaN層厚減少にともなって強磁性成分が増大した. 2.MBE成長GaGdNの場合では結晶成長時のGaとNの供給比によっては膜中に空孔型欠陥が導入されることが見出されていたが,今回作製したGaTbNの成長条件では膜中への空孔型欠陥の導入は観測されなかった.また,Tbイオン注入GaNの1000℃までの等時アニールを行い,その過程における照射誘起空孔の形態変化について調べた.GaN中の照射誘起空孔は1000℃までのアニール過程で移動し集合していく様子が観測された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度実施内容として,研究代表者である長谷川は,Gd添加3次元規則分布,Tb添加2次元規則分布の形成と電気・光学・磁気特性評価,Tb添加ランダム分布の電気・光学・磁気特性の解析を行った. 研究分担者の薮内は,計画していた通り,次の2種類の希土類元素添加により発生する格子欠陥の評価に着手した.成長条件を変えて作製したMBE成長GaTbN膜およびTbイオン注入GaN膜中の空孔型欠陥について原子炉ベース低速陽電子ビームを用いて陽電子消滅測定を行い,Tbドープによる空孔導入等について調べ,新たな知見を得ている. これらのことから,概ね予定通りに進んでいる,と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者の長谷川は,H31(R1)年度前半では,PA-MBE法による2次元および3次元規則分布型についての試料作製ならびに評価に重点を置いて研究を進める.特に,結晶成長に関する事項(希土類窒化物(REN)ナノ薄膜の臨界膜厚の制御,GaN層へのSi添加などによるキャリアの導入)に焦点を当てて実施する.また,これらのRENナノ薄膜を用いて作製した積層構造の結晶構造,電気的磁気的特性評価も同時に実施する.これらの結果をもとに,磁性元素の空間分布と磁気特性との相関を明らかにする.後半では,得られた相関関係から特徴的な試料を選定してRENナノ薄膜/GaN積層構造を形成し,それらの電気・光学・磁気特性を詳細に評価する. 研究分担者の薮内は,希土類添加のもたらす空孔型欠陥の評価を推し進める.これまでに,Tbイオン注入GaNでは1000℃までのアニールで照射誘起空孔が移動し空孔集合体を形成する様子が陽電子消滅測定で観測された.ただし希土類元素と原子空孔との相互作用について調べるためにはこれらの空孔集合体がアニールアウトされた後に残存する欠陥を観察する必要がある.そこで,H31(R1)年度はイオン注入試料の1200℃までのアニールを行い,残存する空孔型欠陥を陽電子消滅測定により観察する.また,比較試料として,自己イオン(Nイオン)照射により照射誘起空孔のみを導入したGaNも作製し,同様のアニール処理後に陽電子消滅測定を行い,希土類元素と原子空孔との相互作用を明らかにする. 以上の結果から,希土類イオンの空間分布を制御してIII 族窒化物半導体中に取り込めることを示すとともに,その空間分布と磁気特性の相関を解析して磁性機能発現機構の提案を目指す.
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