研究課題/領域番号 |
17H02778
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
高橋 正光 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 次世代放射光施設整備開発センター, グループリーダー(定常) (00354986)
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研究分担者 |
Voegeli Wolfgang 東京学芸大学, 教育学部, 助教 (90624924)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | その場X線回折 / 分子線エピタキシー / III-V族半導体 / 窒化物半導体 |
研究実績の概要 |
結晶成長は、ナノ秒から数十秒以上にわたる時間スケールの現象が階層をなす、本質的にマルチスケールな現象である。その中で、ミリ秒スケールの転位発生メカニズムは、結晶品質を決定づける重要な現象であるものの、これらをリアルタイムで直接観測することは困難であった。本研究では、従来の結晶成長中その場放射光X線回折測定において律速となっていた機械的回転部を排し、多角度同時分散型X線光学系を採用することで、ミリ秒スケールの超高速X線回折を実現する。平成29年度には、放射光施設SPring-8の量子科学技術研究開発機構専用ビームラインBL11XUに適合した多角度同時分散光学系を導入し、数ミリ秒の時間分解能でX線逆格子マップを測定するシステムを構築した。 平成30年度は、本光学系の一部をなすV字チャンネルカット結晶を大型にし、効率を20倍向上させた。さらに、本光学系をGaAs(001)基板上のInGaAsヘテロエピタキシャル成長のその場X線逆格子マップに応用し、これまで7秒程度であった時間分解能を一気に短縮し、100ミリ秒スケールの超高速X線回折を実現した。また、基板の空間対称性が異なるInGaN/GaN(0001)ヘテロエピタキシャル成長への応用を試み、100ミリ秒分解能でのX線逆格子マップ測定に成功した。 これらを通じて、転位の起源や、貫通転位発生に先立つ前兆現象の有無、組成分離と格子緩和の因果関係などが明らかにされている。同時に、本手法がどのような試料や測定配置に対して最も有効に使えるか、または不向きであるかについても、知見が得られつつある。GaN基板のように、面内方向のモザイク度が大きい試料を測定する場合や、多層膜構造の評価のように、膜厚や層界面の粗さなど、基板表面に垂直な方向の構造が主要な評価項目となる場合には、それに適した光学系の設計が必要であることもわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、放射光施設SPring-8の量子科学技術研究開発機構専用ビームラインBL11XUに構築した多角度同時分散光学系を用い、InGaAs/GaAs(001)、InGaN/GaN(0001)など、典型的なヘテロエピタキシャル成長試料に対して、ミリ秒の時間分解能でX線逆格子マップを測定できることを実証することが目標であった。InGaAsの成長については、従来手法の時間分解能であった約10秒をはるかに上回る100ミリ秒の時間分解能を達成し、本手法の有用性を示すことができた。一方、面内のモザイク度が著しく大きい窒化物半導体の成長などの対象に対しては、光学系の設計に変更を加えることが必要であることも明らかになってきた。このように、本研究で開発している計測手法の応用可能性とともに、適用限界や改善の指針も併せて得ることができており、計画はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
面内方向のモザイク度が大きい試料や、基板表面に垂直な方向の構造が主要な評価項目となる場合などにも、本手法の適用範囲を拡大するため、多角度同時分散光学系を光軸周りに回転させ、試料に入射するX線の発散方向を制御する改造を実施する。併せて、X線強度の安定化のために、第1結晶による回折強度をモニターする機構を追加する。改良した光学系を用い、その典型的な適用例と考えられる多層膜構造の成長過程解明を進めていく。さらに、測定対象となる結晶成長のバリエーションをマスク基板上への成長にも拡大する。このように複数の格子ひずみ系の転位発生メカニズムをミリ秒スケールの超高速X線回折によって解明し、本手法の汎用化を進めていくとともに、転位発生のメカニズムの解明および転移制御技術の提案につなげていく。
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