結晶成長は、ナノ秒から数十秒以上にわたる時間スケールの現象が階層をなす、本質的にマルチスケールな現象である。その中で、ミリ秒スケールの転位発生メカニズムは、結晶品質を決定づける重要な現象であるものの、リアルタイムで直接観測することは困難であった。本研究では、従来の結晶成長中その場放射光X線回折測定において律速となっていた機械的回転部を排し、多角度同時分散型X線光学系を採用することで、ミリ秒スケールの超高速X線回折を実現する。放射光施設SPring-8の量子科学技術研究開発機構専用ビームラインBL11XUに適合した多角度同時分散光学系を導入し、数ミリ秒の時間分解能でX線逆格子マップを測定するシステムを構築した。 多接合太陽電池などへの応用の観点から重要なGaAs(001)基板上のInGaAsヘテロエピタキシャル成長のその場X線逆格子マップに対して、多角度同時分散型X線光学系を応用した。これにより、これまで7秒程度であった時間分解能を一気に短縮し、100ミリ秒スケールの超高速X線回折を実現した。 また、さらに、InGaN/GaN(0001)ヘテロエピタキシャル成長にも本手法を応用し、100ミリ秒分解能でのX線逆格子マップ測定に成功した。窒化物半導体混晶であるInGaNは、GaとInの組成比を変化させることによって、バンドギャップを0.7eVから3.4eVまで制御できることから、可視光領域すべてをカバーする光デバイス材料になりうると期待されている。しかし、窒化物半導体は、シリコンやGaAsなど従来の半導体のようには結晶の転位密度の低減化が進んでおらず、転位挙動の知見が重要である。 これらを通じて、転位の起源や、貫通転位発生に先立つ前兆現象の有無、組成分離と格子緩和の因果関係などが明らかにされた。今後、これらの知見をふまえ、学理に基づいた転位制御技術へと発展していくことが期待される。
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