研究課題/領域番号 |
17H02781
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
藤ノ木 享英 (梅田享英) 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (10361354)
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研究分担者 |
岡本 光央 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (60450665)
原田 信介 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究チーム長 (20392649)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ワイドギャップ半導体 / MOS界面欠陥 / 炭化ケイ素 / 窒化ガリウム / 電子スピン共鳴分光 / 界面準位 / 移動度劣化 / 閾値変動 |
研究実績の概要 |
本研究は次世代パワーエレクトロニクスの主力デバイスと目される炭化ケイ素(4H-SiC)および窒化ガリウム(GaN)のMOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)のMOS界面欠陥を電子スピン共鳴分光によって明らかにしようとするものである。 GaN-MOSFETについては、研究協力者の民間企業からGaN-MOSFET(電界効果移動度=30cm2/V/s)の提供を受けて、電流検出型の電子スピン共鳴分光(EDMR法)を用いての界面欠陥評価を開始した。その結果、室温EDMR測定において異方的な界面欠陥信号を検出することができた。信号のg値(gyromagnetic factor)は界面垂直方向でg=2.358、面内方向でg=2.257を示し、かなり異方性が大きい。金属元素上の電子スピンではないかと推察される。他方、研究協力者の元で、高移動度GaN-MOSFET(100cm2/V/s以上)と本研究が測定した低移動度GaN-MOSFETの高分解能電子顕微鏡観察を行ったところ、低移動度MOSFETではGaN/SiO2界面に界面遷移層が発生していることが分かった。また電気特性からは遷移層に大量の電子トラップが含まれていることが示唆された。したがって、本研究が検出した低移動度GaN-MOSFETの界面EDMR信号は界面遷移層の電子トラップではないかと推測される。来年度は高移動度GaN-MOSFETのEDMR評価を行うことを計画している。 4H-SiC MOSFETについては、a面やm面((11-20)面または(1-100)面)のSiC-MOSFETの作製を研究分担者の元で行い、平成29年度にその電気特性評価が一通り完了した。MOSFETは問題なく動作しており、a面やm面の特徴である高い電界効果移動度も見られている。来年度はこれらのSiC-MOSFETに対してEDMR分光評価を開始する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GaN-MOSFETのEDMR分光評価はまだ誰もやっていないチャレンジングな実験であったが、界面欠陥からのEDMR信号の検出に成功した。この信号を追跡していくことで、GaN/SiO2界面(あるいは界面遷移層を挟んだGaN/GaOx/SiO2界面)の界面欠陥についての新たな知見が期待できる状況となった。 一方SiC-MOSFETについては、当初の計画の通り、平成29年度は評価対象となるa面、m面SiC-MOSFETの作製を行った。そして予定通り年度内に完成し、来年度はEDMR分光評価を進めることができる手筈が整った。評価において大切になるポイントは、既存・既知のSiC-MOS界面である4H-SiC(0001)面=Si面、および4H-SiC(000-1)面=C面との比較である。そこで平成29年度はSi面およびC面SiC-MOSFETの界面欠陥の解析も進展させた。その結果、Si面では界面垂直方向を向いた炭素ダングリングボンド型の界面欠陥の存在が明らかになった。またC面では、ウェット酸化とドライ酸化で界面欠陥の種類ががらりと変わることも明らかになってきた。これらのSi面界面欠陥、C面界面欠陥(ドライ、ウェット)がa面やm面で登場するのか、または、全く新しい欠陥が発生しているのかを来年度明らかにできると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに延べてきたようにGaN-MOSFETについては、低移動度 vs. 高移動度GaN-MOSFETの比較が重要である。この比較によりEDMR分光で検出された界面欠陥信号と界面遷移層との関係が明らかになる。さらに現状のGaN-MOSFETのEDMR分光評価は室温のみで行われているので、極低温(4K)~室温での幅広い温度範囲でのEDMR分光評価を行うことも計画している。低温EDMR測定では別の界面欠陥信号(特にエネルギー位置の浅い界面準位)が見える可能性がある。来年度以降に以上の評価項目を順次遂行していく予定である。 SiC-MOSFETに対しては、a面、m面 vs. Si面、C面の比較が重要である。Si面やC面のEDMR信号については平成29年度でほぼ総ざらいした。a面やm面で共通の界面欠陥信号が現れるか、または、全く新しい欠陥が現れるかが大いに興味がもたれる点である。 いずれのMOS界面においても、EDMR信号が検出された後は、その信号の起源を明らかにすることが大切である。そのためにはEDMRスペクトルの超微細分裂(核スピンと電子スピンとの相互作用)を解析することが必要で、その解析に全力を尽くす。超微細分裂データは第一原理計算で精密に計算予測することも可能なので、実験データが揃ってきた段階で理論計算グループに第一原理計算を依頼し、超微細分裂データの実験 vs. 理論の比較を行うことを予定している。平成30年度はそれも視野に入れて研究を遂行していく。
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