研究課題/領域番号 |
17H02789
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
長谷川 剛 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50354345)
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研究分担者 |
松本 卓也 大阪大学, 理学研究科, 教授 (50229556)
田中 啓文 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 教授 (90373191)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シナプス動作素子 |
研究実績の概要 |
ディープラーニングでは、シナプスの結合荷重を学習によって変化させることで脳型の情報処理を行っている。シナプス素子の可変抵抗域が大きいほど、より高度で複雑な情報処理が可能となる。本研究では、電極から析出させる金属原子で電極間に挟んだ分子を歪ませることで、連続的に大きな抵抗変化を示す新しいシナプス動作素子の実現を目指している。初年度となる平成29年度は、C60分子を測定対象として、走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針の移動(押し付け)によるC60分子の圧縮ならびにそれに伴う電子状態変化計測を行った。その結果、圧縮に起因するバンドギャップの縮みなどC60分子の電子状態変化が観測できた。続いて、電圧印加によって銀原子の析出が可能な硫化銀をSTM探針として用い、探針位置を固定した状態で電圧・電流特性測定を行った。その結果、銀原子の析出する電圧条件でのみC60分子の電子状態が変化した。この結果は、機械的な駆動手段を用いずとも電圧制御のみでC60分子の圧縮が可能であることを意味しており、本研究で目標としている「原子圧縮制御型分子シナプス素子」の実現可能性の高さを示すものである。平成29年度はこれらの成果に加えて、圧縮力と電子状態変化の相関を探るために必要な原子間力顕微鏡のセットアップに着手した。また、C60分子と探針間の不純物の存在が懸念される測定結果が散見されたことから、より清浄な試料を作製するためのプロセス開発および装置の改造を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標である「原子圧縮制御型分子シナプス素子」の実現に最も不可欠な、電圧印加のみによるC60分子の圧縮ならびにその電子状態変化の観測に成功した。次年度の研究に必要な原子間力顕微鏡を用いた測定方法の立ち上げや、より精度の高い測定を行うための試料作製方法の改善も、分担研究者との連携により順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画に則り、C60分子の圧縮による電子状態変化の詳細を、走査トンネル分光法を用いることで明らかにする。理論計算に基づく分子軌道との比較を行うことにより、分子圧縮の効果であることを確認する。走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いた実験で、探針移動距離と電子状態変化の関係を明らかにする。一方、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた実験で、原子間力と電子状態変化の関係を明らかにする。両者の結果を比較することで、歪みの効果を定量的に明らかにすることを目標とする。これらの精密な実験を行うためには、基板表面を含む試料作製技術の開発が不可欠で有り、昨年度に引き続き、試料作製に関する実験を行う。
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