研究課題
大きなスピン-軌道相互作用を持つ5d電子系酸化物が強相関物理学の新しいパラダイムとなっている。スピン‐軌道相互作用がクーロン相互作用よる協奏現象という5d電子系の特徴をエレクトロニクスとして活用することを目指した。今年度は、立方ペロブスカイトSrRuO3とSrIrO3からなる界面構造をSrTiO3基板上にパルスレーザー堆積法により作製した。膜厚はSrRuO3では1.2~2 nm、SrIrO3では0.8 nmとした。基板から薄膜に至るまで一貫してペロブスカイト構造が保たれ、原子レベルで理想的界面を作製することができた。積層構造をSrIrO3/SrRuO3/SrTiO3とSrRuO3/SrIrO3/SrTiO3の2種類作製し、ホール抵抗の電界効果を測定したところ、後者の構造でのみ電界効果が観測された。特に、異常ホール効果に対しては電界で符号を変えることに成功した。SrIrO3を挿入しない場合にはこのような大きな電界効果は観測されないことから、強いスピン-軌道相互作用を持つSrIrO3をゲート絶縁体と強磁性体の間に置くことが異常ホール効果の電界効果に対して本質的に寄与することが明らかとなった。さらに、トポロジカルホール効果でもSrRuO3/SrIrO3/SrTiO3の構造でのみ電界効果を観測した。界面に生じるジャロシンスキー・守谷相互作用およびそれによって作られたスキルミオン構造がトポロジカルホール効果の起源であることは、すでに研究代表者による先行研究で明らかとなっているため、観測された電界効果は、スキルミオンの数密度変化に対応すると考えられる。さらにX線吸収磁気円二色性(XMCD)によりSrRuO3/SrIrO3界面においてSrIrO3に生じる近接磁性を評価したところ、0.02ボーア磁子と金属系界面に比べて著しく小さいことを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
SrRuO3/SrIrO3界面における異常ホール効果ならびにトポロジカルホール効果の電界変調は、本研究課題の中盤以後での達成を目指していたが、初年度に達成することができた。また、二年目以後に実施する予定であった磁気近接効果測定も前倒しで実施し、金属系界面との大きな違いを示唆する結果を得た。
今年度明らかとなったスピン-軌道相互作用に由来する磁気輸送特性の電界変調は、金属系には見られない5d電子系酸化物に固有の特徴となりうる。それを踏まえ、室温で動作する酸化物磁性体と5d電子系との界面を形成し、その界面物性を明らかにする方針が考えられる。磁気異方性や磁壁などスピン-軌道相互作用に起因する磁気現象は数多くあるため、それらを電界で制御しデバイスへ応用する際に界面物性の情報が必要となることが予測される。
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http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180115_1/