研究課題/領域番号 |
17H02795
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
森田 健 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30448344)
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研究分担者 |
中嶋 誠 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (40361662)
揖場 聡 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究チーム付 (90647059)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スピン制御 / スピン軌道相互作用 / テラヘルツパルス |
研究実績の概要 |
電子スピンは,「電荷」と「スピン」の両方の性質を持ち,特に「スピン」の量子力学的な性質を積極的に利用した全く新しいデバイスが実現・提案されている.このような新規デバイスを半導体中で実現するには,半導体中でのスピンの高速制御が重要となる.特にスピン軌道相互作用が強いIII-V族半導体中では,スピンをドリフトさせることで内部有効磁場を利用した無磁場でのスピンの回転操作が可能である.ピーク強度が1 MV/cm に達する高強度THzパルス発生が通常の実験室レベルで実現できるようになったが,この高強度THzパルスを半導体中の電子スピンに照射すれば,スピンは強い電場を感じてドリフトし,上記の原理による超高速スピン制御が実現可能となる.我々のシミュレーションによると1 ps以内といったスピンの超高速制御を実現するためには,ピーク強度が100 kV/cm以上の高強度THzパルスが必要である. 本研究を実施するために100 kV/cm以上の高強度THzパルスが出力可能な繰り返し周波数が1 kHzの超短パルスレーザーを保有する阪大レーザー研で実験を行い,共同研究(共同研究者:中嶋氏)を開始した.実験開始前の準備として平成29年度前半は,①高強度なTHzパルスを発生する光学系と②スピンの時空間ダイナミクスを検出する光学系の構築を行った.平成29年度後半は,二つの光学系を組み合わせた最終光学系をブレッドボード上に作製した.光学系全体を阪大レーザー研まで移動し,それらをレーザー研のレーザー光源横の光学定盤上に設置した.実際の実験では,室温下でGaAs量子井戸中にスピンが生成できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,高強度THzパルスによるスピン制御の実験を行うために,THzパルス発生光学系とスピン検出光学系を組み合わせた光学系の構築,設置を阪大レーザー研で行った.阪大レーザー研での設置を終えるところまでは終了したため,概ね順調といえる.100 kHz以上の繰り返し周波数を有する超短パルスレーザーを用いた実験では,GaAs量子井戸中のスピンの生成・検出が容易であった.しかし,阪大レーザー研の1 kHzレーザーでは,スピンの生成・検出が非常に難しいことが分かった.ワンパルスあたりのエネルギーが大きいため,試料を破壊しない程度の励起パルス強度まで抑えようとすると,逆にポンプ光とプローブ光の強度が弱まり高いSNでのスピンの検出が難しいことが分かってきた.平成29年度の研究では,実験だけでなくTHzパルスによるスピン制御のモンテカルロシミュレーションも行った.その結果によると,THzパルスの強度をあまり高くすると(数kV/cm以上),Dresselhausスピン軌道相互作用の3次項によってスピンがすぐに緩和してしまうことが分かった.従って,スピンの高速制御のためとはいえ,THzパルスの強度を上げてはいけないことが分かった.平成30年度はこれらの問題解決のための対策を考えた上で実験を進めることが望まれる.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,29年度に行った問題点を踏まえて,これまでのようにスピンの生成・検出を行う実験でなく,キャリア(電子)の生成・検出を,試料を破壊することなく行うことができる条件出しの実験から着手する.そのために,①ポンプとプローブパルスを回折格子,レンズ,ミラーの一式で波長を切り出し,時間幅100fsから1psまで伸ばすこと,②試料温度とポンプとプローブの波長の適した関係を見出すこと,の二つの課題を重視し研究を進める.それにより,THzパルスによって動く電子の空間的な振る舞いについて調べることが可能になる.本来のスピン制御といる目標とは離れるが,まずはTHzパルスによってどの程度電子が空間移動するのかについての原理検証実験を行う. この基礎的な実験を進められれば,スピンの励起・検出条件も明らかになるはずで,本題であるTHzパルスによるスピン制御の実験に移行できる.我々の行ったモンテカルロシミュレーションでは,THzパルスのピーク強度を100 kV/cmまで上げてしまうとスピンは半回転程度で終了し,あとはDresselhausスピン軌道相互作用の3次項によって緩和してしまう.10 kV/cm程度では10ps程度で1回転できることが分かっていて,これらの計算結果と実験結果を比較することで,高速スピン制御の最適な条件を明らかにする.
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