研究課題/領域番号 |
17H02797
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 一隆 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (20302979)
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研究分担者 |
鹿野 豊 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (80634691)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子コヒーレンス / 電子フォノン結合系 / フェムト秒 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、光パルスの位相を含めてアト秒の時間精度で制御したフェムト秒パルス列を用いた干渉型過渡反射率計測を用いることてで固体物質中の電子・フォノン結合系における量子コヒーレンスを計測することである。 半導体単結晶GaAsに対して干渉型過渡反射率計測実験を行い、電子・フォノン結合量子系における量子コヒーレンス計測を行った。使用したレーザーパルスは中心波長 800nmでパルス幅40fsの近赤外光パルスである。過渡反射率計測ではGaAsの光学フォノンとフォノン・プラズモン結合モードのコヒーレントな振動が観測された。また、反射光を光学バンドパスフィルタを通して計測することで、反射光の光学干渉の影響と不均一幅広がりの影響を除外した。ポンプパルス対の間隔を300アト秒ステップで変えながら過渡反射率計測を行い、光学フォノン強度をポンプ対間隔に対してプロットすると、約2.7fs周期の電子状態干渉による速いフリンジと116fs周期のフォノン状態干渉のフリンジが観測された。試料温度90Kの場合、電子状態干渉が光パルスの光学干渉よりも長く続くことから、GaAsの電子コヒーレンスが約50fs程度保持されていることが分かった。また、電子コヒーレンスの振る舞いには、脱位相と位相回復の様子が観測された。電子2バンドと調和振動子によるモデルポテンシャルを用いて、量子状態の運動方程式を2次の摂動計算により解いたところ、この位相の振る舞いは、電子・フォノン結合系におけるラマン過程での量子経路干渉の結果とよく一致することが分かった。また、パルス光の中心波長をバンドギャップエネルギー以下に設定して実験を行ったところ、電子干渉のフリンジは光学干渉と同等の時間で消失し、GaAs中の電子コヒーレンスの生成・保持は生成していないことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
挑戦的萌芽研究(平成27年度~28年度)「干渉型過渡反射率測定による固体中の量子コヒーレンス 計測」で開発した装置をアップグレードして低温にける量子コヒーレンス計測をGaAs半導体単結晶を試料として計測できるようにした。冷凍機を低振動化するために、レーザー設置架台から分離し、空調の風の影響を抑えるカバー等を装備することで、10Kまでの低温度でのコヒーレントフォノン計測ができるようになった。また、パルス間隔の精緻な制御を行うために、装置全体のカバーを装備し、計測システム全体が一昼夜に渡って1K程度の温度ゆらぎ制御でようになった。これにより、24時間を超える長時間自動測定を行えるようになった。測定のための制御プログラムの整備も行っている。これらに工夫により、10Kの試料温度まで干渉型過渡透過率計測を行うことができた。そのため当初予定していた新しい低振動型クライオスタットの導入は行わなかった。一方で、フェムト秒レーザーオシレータ励起用のダイオードCWレーザーを購入した。反射光を分光測定できる新しい実験システムの構築を手がけた。この装置では光振動にフォノン振動情報を含ませ、量子コヒーレンス計測を行うもので、干渉型過渡反射率測定結果と相補的な情報を得ることができる。また、光パルス波長を780-840nmの範囲で、パルス幅を40-60fsの範囲で制御した実験を行い、波長依存性やパルス幅依存性の実験を行った。さらに、反射光検出に光学バンドパスフィルタを用いることで、反射光の光学干渉の影響や不均一幅広がりの影響を抑えた計測ができるようにした。 理論では、これまでに構築した電子2凖位モデルを位相ロックパルス対励起に拡張し、実験結果を解析できるようになってきている。 得られた研究成果は、国内学会で発表するとともに国際会議(QNO2018)での招待講演として発表している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きn-型GaAs(100)を用いた干渉型過渡反射率測定を室温から10Kの範囲で行い、量子コヒーレンスの時間的な振る舞いにおける温度依存性を調べる。この際、励起光エネルギーやパルス幅のゆらぎによる影響を詳細に把握するために、同条件での実験を繰り返し行うことで、再現性の確認と詳細なデータ取得を行う。電子コヒーレンス保持時間に対するキャリア密度の効果を調べるために、p-型GaAsとドープしてないGaAsを試料として過渡反射率計測を行う。特に、p-型GaAsではLOPCモードのコヒーレント振動がほとんど発生しないことが知られており、LOフォノンの寄与だけを選別的に調べることができる。また(GaAs/AlAs)量子井戸構造材料を用いて、コヒーレントフォノン寿命や電子コヒーレンスに対する量子サイズ効果を調べる。半導体結晶中の量子コヒーレンス計測に加えて、超電導物質であるYBa2Cu3O7-xを対象として、超電導状態における電子コヒーレンス計測に向けた実験を行う。さらに、光学応答計測に加えて光誘起される電流の計測を行える装置開発を行う。 理論研究では、現在のところガウス型パルスでフーリエ限界パルスを仮定して計算を行っているが、任意のパルス形状や周波数チャープがある場合も取り扱える計算に拡張する。また、実験結果を理論解析することによって量子コヒーレンス保持時間の定量的評価を行う。
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