相対位相を制御した近赤外フェムト秒パルス対を用いた、干渉型過渡反射率計測法を用いて半導体結晶における電子・フォノン結合量子系のコヒーレント制御を行った。半導体結晶 GaAs(100)を試料として、ポンププローブ遅延時間に関する振動としてコヒーレントな縦波光学フォノン振動を観測し、300アト秒ステップでポンプパルス対時間間隔の制御することでフォノン振動振幅をコヒーレントに制御した。フォノン振幅強度の変化には、電子状態のラムゼイ干渉効果による約2.7 フェムト秒の干渉縞を見ることができ、90Kの試料温度において光照射後50フェムト秒程度の間、電子フォノン量子系のコヒーレンスがGaAs結晶中に保持されることを確認した。この電子コヒーレンスは、第1ポンプパルス照射後50フェムト秒近傍で一旦崩壊し、その後復活する特徴的な振る舞いを示すことが分かった。同様の実験を直交偏光条件のポンプパルス対で行ったが、この際にはフォノンコヒーレンスは観測されるが、電子コヒーレンスは観測されなかった。また、励起光強度依存性の実験や、ドーパントの異なるGaAs単結晶やGaAs量子井戸構造など他の試料についても同様の計測ができることを確認した。 電子2バンドと変位した調和振動子フォノン2準位で構成される電子フォノン量子系を用いて、フェムト秒パルス対によるコヒーレント制御の量子理論を作成した。その際に、密度演算子形式の運動方程式を2次の摂動論を用いて計算した。また、光偏光効果も考慮した。計算結果はGaAs単結晶での電子・フォノン結合量子系のコヒーレント制御の実験結果をうまく再現することができた。特に、電子コヒーレンスの崩壊と復活現象は、瞬間的光吸収過程では起こらず、瞬間的誘導ラマン散乱過程に由来するものであることを明らかにした。
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