研究課題/領域番号 |
17H02798
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
杉田 篤史 静岡大学, 工学部, 准教授 (20334956)
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研究分担者 |
松尾 淳一 金沢大学, 薬学系, 教授 (50328580)
川田 善正 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (70221900)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 表面プラズモン / 非線形光学 / 微小光学 |
研究実績の概要 |
本課題の目的は、ナノレベルに近接した金属ナノ粒子複合系を基盤とする新規な非線形光学(NLO)ナノ光素子のプロトタイプデバイスを開発することである。ナノサイズの金属粒子を光励起すると、表面プラズモン(SP)と呼ばれる伝導電子の集団振動が励振され、それに伴い粒子表面に増強された光電場を生じる。このSP増強光電場の発生した金属ナノ粒子表面では複数の光波の混合現象であるNLO効果を示す。複数の金属ナノ粒子が近接した場合、粒子間には近接場相互作用を介して、各粒子におけるSP分極が連成振動する。適切に粒子を配列すると、孤立粒子系では実現しえないユニークな光物性効果および光操作技術が実現される。本研究では、次世代の高密度高速光情報処理技術への展開を視野に、高非線形動作のための複合金属ナノ粒子系の設計及び開発に挑戦した。研究では、励起光中の二光子が結合し、二倍の周波数を持つ一光子に変換される第二高調波(SHG)現象により複合粒子系の非線形光学特性を試験した。 複数の複合粒子系の設計及び開発を実施したが、その中でドルマン型と呼ばれる複合粒子構造体において顕著な非線形性の増大効果を確認することに成功した。ドルマン型ナノ粒子構造体は、二本の平行に配置した直方体形状の金属ナノ粒子二量体とそれに垂直に配列したもう一本の直方体金属ナノ粒子より構成される。二量体構造体部分における逆位相での無輻射的な連成分極挙動が大きな非線形性の実現に関与しているものと考えている。 金属ナノ粒子表面に非線形感受率の大きなポリマー材料を成長することにより、高非線形動作を実現することにも挑戦した。現在時点では汎用な非線形光学ポリマーを成長した孤立金属ナノ粒子より発生するSHG信号の約40倍の増大を確認した。また、励起波長である800nm帯で高非線形動作する非線形光学ポリマーの開発も進めており、小スケールでの合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では三系統の金属ナノ粒子複合系の設計を提案したが、前述の通り、ドルマン型複合粒子構造体において明瞭な非線形性の増大効果の得ることに成功した。平成30年度の研究終了時点では提案技術の優位性を実証した段階である。具体的には参照用に用意した単量体および二量体構造と比較してSHG発生量が二倍程度増大することを確認した。引き続き設計の細部を検討することにより、これよりも大きなSHG発生効果を実現し、着実に非線形動作特性を向上することができるものと考える。 NLOポリマーによる金属ナノ粒子表面のNLO特性増大効果に成功した点、近赤外帯で高非線形動作を示すポリマー材料の開発に成功した点もまた平成30年度の研究における大きな成果である。一般的な非線形光学の理論に基づくと、励起光波長と物質の吸収波長が近づくと共鳴励起効果により非線形光学特性が増大することが知られている。本研究では励起光源として波長750-900nmの近赤外光を利用しており、この波長帯域に吸収特性を持つ非線形光学媒質を開発することを計画した。研究の結果、小スケールであるが、700-850nm帯域に吸収特性を示すNLOポリマーを開発することに成功した。試験的に石英ガラス基板上に開発したNLOポリマーを成長させたところ、SHG発生を示すこと、また変換効率は吸収スペクトル形状と対応しており、共鳴励起効果の得られることを確認した。汎用非線形光学ポリマーによってもSHG発生量が40倍も増大しているだけに、この新規なポリマー材料の利用により、間違いなくこれ以上の非線形光学動作の実現につなげられるものと考える。 以上のことから、研究計画は順調に進捗しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度の平成31年度は、ドルマン型金属ナノ粒子複合構造体の設計を最適化するとともに、この構造におけるNLO特性の増大機構を究明する。また、前年までに合成した高非線形性ポリマー材料との複合化により、さらなる非線形性増大効果の実現を目指す。最後に得られた研究成果を実用的な微小光学のためのナノ非線形光学素子へと展開する上での課題について検討し、研究の総括とする。 複合粒子構造体の設計最適化は次の二点の指針に基づいて実施する。最初に二量体構造における連成プラズモンモードと単量体構造の局在プラズモンモードの共鳴周波数が一致したときに最も大きな相互作用が得られることに着目する。この条件を満たす新たな複合粒子構造の開発することが第一点目の設計指針である。次に単量体と二量体の相互作用が強くなると、その分電場増強効果が大きくなる半面、光との結合効率が低下する点に注目する。これらのバランスの取れた条件で最適な非線形動作が実現されるものと考える。そこで、単量体と二量体間の距離を系統的に制御することにより、非線形動作のために最適な粒子間相互作用を探査することが第二点目の設計指針である。 また、非線形性増大化の引き金となる基本メカニズムを解明するために時間分解分光を実施する。これは、連成プラズモン効果によりプラズモン分極からの輻射特性が抑制されると、プラズモン分極の位相緩和時間が長時間化するからである。フェムト秒時間スケールで展開する表面プラズモン分極の位相緩和挙動を実時間観測することによりこの予測について検証する。 最後に新たに開発した非線形光学ポリマーによる高非線形動作化を実施する。分光実験を進めるためにはある程度の合成量を確保する必要があるため、大スケールでの非線形光学ポリマーの合成法の開発にも着手する。
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