研究課題/領域番号 |
17H02806
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 信哉 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (40295019)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 植物成長促進 / 酸素プラズマ / DNA解析 / 遺伝子発現 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
研究目的は,エピジェネティクスおよび遺伝子変異が生じるプラズマ条件の特定である.以下の(i),(ii)を実施した. (i)エピジェネティクスおよび遺伝子変異の確認 高周波酸素プラズマを照射したArabidopsis(シロイヌナズナ)の種子を以下に記述する方法で解析した.DNAシーケンス解析による遺伝子配列の確認により,遺伝子変異の発生は生じていないことを確認した.エピジェネティクスの発現については,DNAメチル化により確認を行った.メチル化したDNAをスクリーニングかつ定量化するために,メチル化DNA濃縮法を採用した.本方法では,ゲノムDNAの抽出および断片化→DNAメチル化領域の濃縮→濃縮産物の解析といった手順で定量化を行った.定量化のプロトコルは以下の通りである. 1. 植物種子よりDNAを抽出,2. ゲノムDNAの断片化,3. アガロース電気泳動により断片化したDNAのサイズを確認する,4. メチル化したDNAを抽出,5. 溶出したDNAを解析し定量化した.その結果,エピジェネティクスの発現が確認された. (ii)プラズマ照射遺伝子発現マップの作成 前項(i)で得られた結果を①エピジェネティクスのみが生じる場合,②遺伝子変異のみが生じる場合,③エピジェネティクスと遺伝子変異が同時に生じる場合に分類し,これら三つの場合を酸素ガス圧力と高周波電力をパラメータとしてマッピングし,酸素プラズマ照射による“遺伝子発現マップ”の作成を試みた.得られた遺伝子発現マップと,発芽・成長促進や抗酸化活性向上等の発現した生体機能とを対比し,これらの現象がエピジェネティクスまたは遺伝子変異であることの同定を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エピジェネおよび遺伝子シーケンス解析を行ったところ想定外に多くの遺伝子変異が認められた.本現象を精密に確認する必要があり,追加の解析を実施した.この解析は実験植物の育成(粒子種依存遺伝子発現解析および植物成長の特性確認)後でなければ実施できず,また本現象により結果として計画が12ヶ月延長となったものの,追加のエピジェネティクスおよび遺伝子シーケンス解析により,以下の二点が明らかとなった. ・エピジェネティクスを誘導する活性酸素種の特定 ・粒子種依存遺伝子発現と植物成長特性との相関 また,プラズマ照射遺伝子発現マップの作成数が倍増したが,遺伝子発現マップと発芽・成長促進や抗酸化活性向上等の発現した生体機能とを迅速に対比する方法を見出したことで,これらの現象がエピジェネティクスまたは遺伝子変異であることを容易かつ迅速に確認可能となった.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策:エピジェネティクスを誘導する活性酸素種の特定 (i)活性酸素の選択的生成 低圧酸素プラズマ中で選択的に生成する活性酸素種と,DNAメチル化やヒストン修飾によるエピジェネティックな遺伝子発現変動との関係を明らかにする. 酸素プラズマ中の活性酸素種の持つ酸化エネルギーは100~150 kcal程度であり,活性酸素の種類によっては二重らせん構造を持つ遺伝子の核酸塩基の配列を変化させることが可能である.そのため,真空容器内の圧力や電源電圧の制御により,酸素プラズマ中の電子のエネルギーを変化させ,異なる種類および励起状態の活性酸素種の生成を行う.特に,核酸塩基に影響を与えずにエピジェネティクスを誘導可能なO(5P)の選択的生成を行う.圧力の制御によりO(1D)とO(5P)との選択生成を試みる.各粒子種の生成量は,可視~赤外領域に対応した狭スリット幅の分光器を用いた発光分光計測により求める.また,プラズマ生成電極への印加電圧の違いによってO(5P)等の中性の活性酸素と酸素イオンO+との選択的生成を試みる. (ii)粒子種に依存した遺伝子発現および植物成長特性の確認 低圧酸素プラズマ中で選択的に生成した活性粒子種(中性活性酸素や酸素イオン)をシロイヌナズナ種子に照射する.照射した種子からDNAを抽出し,エピジェネティクスまたは遺伝子変異の傾向を検出試薬等を用いて明らかにし,成長促進効果との相関を明らかにする. 以上(i),(ii)の実験より,エネルギーの高い酸素イオンO+や中性活性酸素種O(1D)が遺伝子変異を引き起こし,エネルギーの低いO(5P)がエピジェネティクスを誘導することを示す.
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