研究課題
本研究の目的は、超音波励起により局所的な磁気ヒステリシス曲線を取得し、その曲線から得られる保磁力や損失等の磁気パラメータを空間マッピングする磁気顕微計測技術を開拓し、ミクロなレベルで音響励起スピンダイナミクスを探求することである。超音波による磁気変調・検出技術は、新規の磁気計測手法を提供するとともに、鉄鋼評価などの工業分野への非破壊検査応用が期待される。(a)局所的な保磁力や磁気損失の空間マッピング周波数10MHzおよび20MHz帯の集束型超音波振動子を用いて、珪素鋼板における結晶粒界の可視化および磁区構造に起因した位相反転の観測に成功してきた。一方で、本研究過程において、結晶粒が比較的大きな一般鋼に関しては、保磁力や磁気損失が主に鋼材の残留応力に依存することが見出された。そこで、ASEM法で得られる局所磁気特性から残留応力を評価することを試みた。まず、引張試験により試験体に外部応力を印加し、各応力に対して、磁気ヒステリシス曲線を取得した。次に、磁気ヒステリシス曲線から得られる保磁力、残留磁化、磁気損失、透磁率に相当する物理量と外部応力との関係をプロットした。その結果、保磁力、残留磁化、磁気損失において明瞭な応力依存性が見出された。特に、保磁力に関しては、サンプル依存性も少なく、残留応力の定量評価にもっとも最適であることが見出された。本研究により、超音波を用いた局所磁気プローブ技術が鋼材の残留応力評価に応用できる可能性を見出した。(b)高速マイクロジェットによる局所音圧発生技術の開発レーザー光パルスを用いた方式を用いたマイクロジェットでは繰返しパルスにおける再現性が十分ではなく、局所音圧源として計測に用いるレベルではないことがわかった。そこで、機械方式のマイクロジェット発生器を開発し、以前よりも安定したパルス発生に成功している。
2: おおむね順調に進展している
高周波ASEMプローブの開発により、当初目的の一つである結晶粒や磁区構造の可視化に成功している。さらに、本研究過程において残留応力評価という重要な応用可能性が見出された。残留応力は、様々な鉄鋼製品やインフラ構造物において重要な検査項目となっているが、非破壊計測が十分確立していない。一般に、磁気特性は応力に敏感であることが知られているため、古くから磁気特性から残留応力を評価する試みはされてきた。しかしながら、通常の磁気測定では対象物に1次コイルと2次コイルを巻き付けてB-H曲線を取得するため、局所的な磁性を評価できず、各場所での応力が評価できない。一方、ASEM法では、超音波集束した領域における局所磁気ヒステリシス曲線が取得できる。2018年度において、引張試験により局所磁気ヒステリシス曲線の詳細な応力依存性を明らかにし、特に、保磁力が応力変換するよい指標であることが判明した。超音波を用いた局所磁気プローブ技術が基礎研究にとどまらず、実社会応用としての可能性が見出されたことは大きな成果であろう。
基礎研究面として、音響誘起される磁気信号のより詳細なメカニズムを明らかにする。特に、磁区内・磁壁での音響誘起磁化発生のメカニズムや内部応力との関係を解明する。応用面としては、保磁力や磁気損失を空間マッピングするシステムを確立し、特に、残留応力イメージング技術へと展開したい。一方、マイクロジェットの開発に関しては、改良した機械方式により音源としての性能を確かめる。音圧波形を取得し、ピーク音圧、周波数および位相とそれらの再現性を確かめ、局所音源としての可能性を明確にしたい。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 4件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (51件) (うち国際学会 22件、 招待講演 8件) 備考 (2件) 産業財産権 (2件)
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