研究課題/領域番号 |
17H02809
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
有吉 誠一郎 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20391849)
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研究分担者 |
田中 三郎 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10271602)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | テラヘルツ/赤外材料・素子 / 超伝導材料・素子 / 超精密計測 / 高分子構造・物性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高分子材料などのソフトマテリアルの基礎物性研究分野に新たな分析手法を提案し確立すべく、高感度・広帯域・大規模アレイ性能を兼ね備えたテラヘルツ光検出器を創製することにある。具体的には、従来の金属系超伝導体に比べて約1桁高い転移温度をもつ銅酸化物系高温超伝導体(YBCO)を導入することで、新たな力学インダクタンス検出器を開発し、1000画素クラス同時読出し回路を構築して冷却から計測制御に至る全自動化の達成を目指している。 2年目はアレイ設計、および1画素の本作製とアレイ試作を行った。 まず、前年度までに得られた1画素設計の知見をもとに、当該年度はMKIDアレイの設計最適化に重点を置いた研究を進めた。具体的には、2.5次元の電磁界解析ソフトウェア(SONNET)を用い、各画素の中心間距離(D)が高周波共振特性に与えるクロストークを解析した。線幅10 umのMKID2画素の共振器長差を20、30、60 umとしたときの周波数変化率を計算した結果、D=600 umまで近づけても周波数変化率は10 %以内に収まることがわかった。 次に、前年度までに最適化したYBCOの成膜条件と加工条件をもとに、MKID1画素の本作製とアレイ試作を行った。具体的には、MKIDパターンを1枚のフォトマスク上に並べて配置し、豊橋技科大の超伝導素子作製用プロセスラインを用いて行った。冷却評価の結果、11 Kにおいて4.8~5.2 GHz帯に25画素に対応する25本の明瞭な共振ディップ(平均の透過強度10 dB、負荷Q値1200、無負荷Q値3000)を確認し、実測と数値解析との共振周波数は良好な一致が得られた。現在、既有のフォトマスクを用いてYBCO製MKIDの試作を継続しており、最終年度に行うMKIDアレイの本作製と性能評価に備えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目終了時にはMKIDアレイの設計解析と試作版の冷却評価によって比較的良好なマイクロ波共振特性を確認し、かつ、YBCO膜の成膜条件最適化によって高品質薄膜の形成を可能にしており、最終年度に行うMKIDアレイの本作製と性能評価の準備が整っているため。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はアレイの本作製と電気・光学特性評価を重点的に行う予定である。 まず、前年度までに最適化したYBCOの成膜条件と加工条件をもとに、MKIDアレイの本作製に取り掛かる。具体的には、異なるマイクロ波共振線路長をもつMKIDパターンを1枚のフォトマスク上に並べて設計・配置し、豊橋技科大の超伝導素子作製用プロセスライン(露光・現像装置、エッチング装置、レーザー顕微鏡等)を用いて行う。また、単層膜というシンプル構造をもつMKIDの高い作製歩留まりを活かし、25画素から本作製を開始して次第にアレイ数を増加させる。 次に、MKIDアレイの電気・光学特性評価に際しては、前年度に導入したヘリウム4冷凍機(最低到達温度3 K)を用い、3 Kステージに温調を掛けることで任意の温度で使用する。まず、ネットワークアナライザやIQミキサなどの計測システム群を用いてMKIDアレイのマイクロ波共振特性を評価する。次に、MKIDアレイの光学特性(検出感度や応答速度等)を明らかにするために、LED光源やテラヘルツ黒体炉を駆使する。特に、1200 Kに高温加熱した黒体炉はテラヘルツ帯での広帯域放射特性に優れ、検出性能の指標となる雑音等価電力(NEP)の精密測定、および高速回転する光学チョッパーと組み合わせることで光応答速度の評価が可能である。 以上のように、MKIDアレイの作製から性能評価・改良設計に至る一連の過程を繰り返して検出素子の最適化を図る。また同時並行して、PC制御の読出し回路を構築し冷凍機システムと組み合わせることで、冷却から計測に至る全自動化の達成を目指す。
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