研究課題
電子と陽電子の束縛系であるポジトロニウム(Ps)のボース・アインシュタイン凝縮(BEC)は、反物質に働く重力の精密測定や消滅ガンマ線レーザー発生に道を拓く興味深い系であるが、未だに実現されていない。本研究の目的は、Ps-BEC 実現で最大の障害となっている超高密度Psの生成技術を開発することである。研究中のスキームでは、超高輝度陽電子バンチをPs生成ターゲットに打ち込むことで超高密度Ps生成を目指しており、本年度は、以下の進展があった。産業技術総合研究所(産総研)の陽電子利用施設に、陽電子バンチビーム発生実験のための陽電子ビームポートを増設し、その下流側に陽電子蓄積装置を設置した。陽電子ビームポートの陽電子ビーム輸送に成功し、陽電子蓄積装置に陽電子が蓄積され始めている。また、陽電子ビーム発生部を改良したことで、ビーム発生強度の増強に成功した。高エネルギー加速器研究機構(高エネ研)の陽電子利用施設を用いて、Psとレーザーとの相互作用を確認する実験を行った。エネルギー 5 keVのパルス陽電子ビームを磁気レンズで集束してPs生成ターゲットに打ち込み、その際、レーザーを同期して照射したことで、Psとレーザーの相互作用の基礎データ取得に成功した。陽電子バンチをPs生成ターゲットに打ち込んだ際の陽電子減速・拡散シミュレーター(モンテカルロ計算コード)を開発した。本シミュレーターは、ターゲット中における陽電子衝突のみならず、クーロン斥力における空間電荷効果を取り入れることが可能であるため、陽電子バンチ発生装置とPs生成ターゲットの開発の効率化が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
陽電子の輝度増強に必要な実験デバイスである陽電子ビームポートおよび陽電子蓄積装置を開発し、それらを用いて基礎実験を開始した。既に、陽電子蓄積装置内に陽電子が蓄積され始めており、実験条件の最適化を進めている。高エネ研の陽電子利用施設を用いて、Psとレーザーとの相互作用を確認するための実験を行い、基礎データを得ることに成功した。陽電子ビームの磁気集束レンズを試作し、その性能の実験的評価を行ったことで、高性能集束レンズ開発の知見を得ることができた。Ps生成・閉じ込めターゲットとして、微細穴加工した新規機能性シリカガラス材料、ゾル-ゲル法により成膜した多孔質シリカ薄膜を試作し、これらのPs生成特性(Psの真空中へのエスケープを防ぐキャッピング効果等)について、産総研の陽電子ビームを用いて評価した。高密度Ps生成法として、輝度増強後の陽電子バンチビームをPs生成ターゲットに打ち込むスキームを検討しているが、ターゲットのチャージアップ問題等の定量的解析ができていない。定量的解析を進めるため、陽電子バンチをターゲットに打ち込んだ際の陽電子減速・拡散を模擬する動力学計算コードを開発した。
陽電子の高密度バンチビームを発生するために必要な実験デバイス(蓄積装置からの引き出し用ビームライン、バンチャー、輝度増強装置)の開発を進める。得られた高密度陽電子バンチビームとレーザーとの同期照射実験を開始し、高密度Psとレーザーとの相互作用の解明を進める。輝度増強装置に用いるレンズの設計では、収差効果の低減に取り組む。高エネ研の陽電子利用施設を用いて、Psとレーザーとの相互作用を確認するための実験を行い、レーザー冷却法や温度測定法の要素技術の開発を進める。特に、レーザーの照射パワー依存性、ターゲットの種類の依存性を調べ、Psレーザー冷却技術、温度測定技術の高度化の指針を得る。陽電子バンチ発生装置とPs生成ターゲットの設計指針を得るため、昨年度に開発したシミュレーターを用いて、Psターゲットに打ち込んだ陽電子バンチの減速と拡散の様子を、様々な初期条件の下(陽電子ターゲット材料種依存性や陽電子バンチ密度依存性、他)で計算する。これらのシミュレーションを通して、陽電子の超高密度化に伴う新たな物理現象を解明する。また、シミュレーターにおいてバンチを構成する陽電子数を最大条件にまで増大できるよう、計算コードの短縮化・並列化を実施する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
JJAP Conference Proceedings
巻: 7 ページ: 011001-1, 10
10.7567/JJAPCP.7.011001
http://www.icepp.s.u-tokyo.ac.jp/~ishida/work/psbec/index_j.html
https://tabletop.icepp.s.u-tokyo.ac.jp/Tabletop_experiments/Ps_BEC.html