2019年度には、X線自由電子レーザー施設SACLAの共同利用ビームタイムを再度取得し、X線誘起磁化現象の詳細な観測を試みた。実験セットアップを一部改良し、より大きなファラデー回転角が得られる630 nmのパルスレーザーをプローブ光とすることで、時間分解磁気光学顕微鏡の測定感度を約3倍に向上させることができた。その結果、Gd L3 吸収端のX線エネルギーである7.2465 keVの単色XFELパルスを照射後、400 fsの時間で試料の磁化が減少する過程を可視光ファラデー回転角の変化として観測した。昨年までに得られた結果をより確実なデータとして取得した。試料の可視光透過率の変化からXFEL照射による電子状態変化も同時に測定しており、超高速な減磁過程および価電子帯の電子状態変化に対応している。この2つの現象の時間スケールは一致したため、これらは互いに関連した現象だと考えている。XFELによる内殻励起に起因する価電子状態の変化が、光学性質および磁性の双方に影響を及ぼていることが明らかになった。電子温度モデルによる解析により、電子系・スピン系・格子系間のエネルギー移送の時間スケールを見積もることで、内殻励起による新しい超高速現象のメカニズムの解明が行える。上記の成果を日本物理学会で報告した。現在、論文を準備している。 また、関連する成果として、SACLAビームラインのX線円偏光素子と可視光ポンプレーザーを同時に用いるためのタイミング計測システムの高性能化、およびFePt試料のフェムト秒磁気ダイナミクスの元素選択的な観測に関する共著論文を出版した。
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