研究課題/領域番号 |
17H02824
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
越塚 誠一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (80186668)
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研究分担者 |
柴田 和也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30462873)
松永 拓也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (40782941)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 計算力学 / 粒子法 / 流体 |
研究実績の概要 |
本研究代表者が考案し、これまで研究を進めてきた粒子法であるMPS(Moving Particle Semi-implicit)法に関して、その高精度化の研究を行った。具体的には以下の3項目について研究成果が得られた。 (1)「空間離散化の高精度化」:これまでLSMPS(Least Squares MPS)法により最小二乗法を用いて任意精度の離散化が行えるようになった。本年度は、これを空間2階微分の離散化に具体的に適用して誤差を評価し、用いた精度が得られていることを確認した。また、空間1階微分に対しては、Corrective Matrixを掛けることで、粒子配置が乱れた場合でも容易に1次精度を維持した計算ができることがわかり、気液二相流への適用など多くの場合でその有用性が示された。 (2)「壁境界条件の計算手法の高精度化と高速化」:壁境界を壁粒子ではなくポリゴンを用いることで複雑な3次元形状を高速に解くことができる。ポリゴンを用いる場合には壁重み関数による壁境界条件の定式化が必要であるが、壁の外側の影響を体積積分で表し、これを境界の面積分に変換する定式化を新たに考案した。本手法を撹拌槽内の流れに適用し、従来よりも高精度であることを示した。 (3)「定常問題の高精度化」:定常問題では粒子を空間に固定するオイラー記述の方法により効率的な計算が可能であるが、格子を用いることなく対流項を計算する必要がある。そこで、対流項の計算にLSMPS法を適用し、近傍粒子には風上側の半分だけを用いる方法を考案した。キャビティ内流れに本手法を適用したところ、従来の差分法に匹敵する計算精度が得られた。これまで粒子法では定常問題の解析が計算時間および計算精度において従来の差分法などと比較して劣るとされていたが、本研究によりこれが克服された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ研究は順調に進捗している。以下にそれぞれの項目について詳細を述べる。 (1)「空間離散化の高精度化」:当初の予定通りLSMPS(Least Squares MPS)法により高精度の計算が可能になっており、本年度は空間2階微分に適用してその有効性を確認した。しかしながら、高次精度では自由表面では計算が不安定になりやすいといった問題点も見つかった。また、近傍粒子の配置によらず空間1次の精度を維持するために、圧力勾配項にCorrective Matrixを掛けることが多く行われるようになった。これは比較的簡単な手順であり、数値的な安定性も良いので、今後、普及すると考えられる。数値的に不安定になりやすい気液二相流においても有効であることがわかった。 (2)「壁境界条件の計算手法の高精度化と高速化」:壁境界の計算方法として、壁粒子、ミラー粒子、ポリゴンを用いる方法がこれまで提案されてきたが、ポリゴンを用いる方法が最も計算容量および計算時間が短く、実用的である。しかし、角や隅では計算精度が悪かった。本研究で提案する面積分を用いる方法により、ポリゴンを用いても安定かつ高精度に壁境界条件を適用できるようになった。 (3)「定常問題の高精度化」:定常問題に対して従来の差分法などと比較して粒子法が不利である理由は、高精度な離散化スキームが無かったこと、および、粒子がラグランジュ法として移動するため、粒子配置が時間的に常に変動するためであった。そこで、粒子をオイラー法として空間に固定して対流項を高精度で計算することが考えられる。LSMPS法を対流項に適用しただけでは数値的に不安定になりやすい。差分法における対流項のスキームに多く見られる風上化を取り入れ、近傍粒子の範囲を球形の範囲から風上側の半球形の範囲に限定することで、数値的に安定かつ高精度な計算結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は次のように研究を進めていく予定である。 (1)「空間離散化の高精度化」:最小二乗法にもとづいた高精度粒子法であるLSMPS(Least Squares MPS)法を様々な流れに適用して、その有効性を確認する。圧力勾配項にCorrective Matrixを掛ける方法についても適用範囲を広げていきたい。 (2)「壁境界条件の計算手法の高精度化と高速化」:壁境界にポリゴンを用いる方法をさらに高精度化していく。特に、ポリゴンに対して面積分を用いる方法では、移動する境界や3次元形状に対して適用し、有用性を広げていきたい。 (3)「表面張力モデルの高精度化」:定常問題の高精度化についてはほぼ見通しが得られたので、表面張力モデルの高精度化に新たに取り組みたい。自動車が冠水路に侵入する際の車体への浸水、空調機器内の水滴の挙動、雨天時の機器内部への雨水の浸入など、液滴の挙動を粒子法によってシミュレーションするニーズが高まっている。しかし、従来の表面張力モデルではラグランジュ法的に移動する粒子のために液滴表面の形状が乱れやすく、これによって表面張力の計算精度が悪い。本研究ではこれを解決すべく粒子法における新たな表面張力モデルを研究する。また、従来の粒子間ポテンシャルを用いる表面張力モデルでは、液体の飛まつが生じても表面張力をある程度は計算できるという利点があるが、液滴内部の圧力上昇の解析解であるラプラス圧が再現できないといった問題点があり、その解決も目指す。 今後の研究では、当初に考えていたアイデアで高精度化がうまくできない場合が考えられると同時に、初期には想定していなかったアイデアでうまくいくことも考えられ、臨機応変に研究を進めていくことを心がける。
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