研究課題/領域番号 |
17H02831
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高木 俊輔 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (40380670)
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研究分担者 |
權業 善範 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (70634210)
中村 勇哉 東京大学, 大学院数理科学研究科, 助教 (20780034)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 判定イデアル / 数値的Q-Gorenstein / 単射性定理 / 大域的F正則多様体 / 正標数 |
研究実績の概要 |
判定イデアルはF特異点論において重要な役割を担うイデアルである.一口に判定イデアルと言っても,有限判定イデアルと巨大判定イデアルの2種類がある.Hochster-Hunekeは2つの判定イデアルは一致すると予想したが,30年以上たった今も未解決である.この予想は,1990年後半にはAberbach-MacCrimmon,原伸生,Karen Smithらによって,Q-Gorenstein多様体の場合に正しいことが知られていた.研究代表者は,彼らの結果を数値的Q-Gorenstein多様体の場合に拡張した. Kollarは1980年代中頃に,標数0の非特異射影多様体上の半豊富な直線束に対する単射性定理を証明した.このKollarの単射性定理は小平の消滅定理の拡張と見なされるものであり,正標数では一般には成り立たない.一方Mehta-Ramanathanは,Cohen-Macaulay大域的F分裂多様体上では,正標数でも小平の消滅定理が成り立つことを証明している.そこで研究代表者と權業善範は,Kollarの単射性定理がCohen-Macaulay大域的F分裂多様体上で成り立つかどうか調べた.そしてCohen-Macaulay大域的F分裂多様体の特別なクラスである,大域的F正則多様体上ではKollarの単射性定理が成り立つことを証明した.藤野修はKollarの単射性定理がトーリック射影多様体上で成り立つことを証明したが,トーリック多様体は大域的F正則多様体であるため,代表者達の結果は藤野の結果の一般化になっている. また研究分担者である中村は,田中公と橋詰健太との共同研究において,標数7以上の3次元対数的標準対に対する極小モデルプログラムの存在を証明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,正標数の線形系の一般元の性質をF特異点論を用いて調べることを目的としている.F特異点論において重要な役割を果たす判定イデアルは一般にはBertiniの定理を満たさないことが,最近Bydlon氏によって示された.Bertiniの定理は一般元の性質を調べる上で基本的かつ重要なものである.このBydlon氏の結果を受けて判定イデアルそのものの研究に立ち返ることにし,その結果判定イデアルに関する重要な予想の部分的な結果を得た. また大域的F正則多様体上の豊富なCartier因子がなす線形系の一般元の性質を調べるために,大域的F正則多様体上でどのようなコホモロジーの消滅定理が成り立つか調べたところ,大域的F正則多様体上でKollarの単射性定理が成り立つことを証明することに成功した. このように当初の計画とは異なるが,着実に研究成果は得られており,進捗状況はおおむね順調と言えるだろう.
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今後の研究の推進方策 |
大域的F正則多様体上の消滅定理についてある程度知見が得られたので,今年度はこの研究をさらに推し進める.標数が多様体の次元より大きいとき,非特異大域的F正則多様体は標数0に持ち上がるため,秋月-中野の消滅定理が成り立つ.標数が小さい場合にも非特異大域的F正則多様体上で秋月-中野の消滅定理が成り立つか調べる. また一般元の研究としては,正標数のジェネリックリンクについて研究する.Ma-Page-Rebecca R.G.-Taylor-Zhangは,イデアルが完全交叉の場合にジェネリックリンクのF純閾値について調べた.この結果をイデアルが完全交叉でない場合に拡張することを考える.正標数ではBertiniの定理が成り立たないことがネックになるが,ジェットスキームの理論を駆使することでこの困難を克服したい.
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