研究実績の概要 |
複素半単純リー環のベキ零軌道の普遍被覆に付随する錐的シンプレクティック多様体を考える.こうして得られた多様体の双有理幾何,およびポアソン変形に関する結果を,ワークショップ,セミナー等で発表した.具体的には,リー環が古典型である場合に,錐的シンプレクティック多様体のクレパント特異点解消を構成するアルゴリズム,さらに相異なるクレパント特異点解消が何個存在するかの明示公式等を報告した.特異点解消の構成には,ベキ零軌道の誘導とよばれる概念が重要な働きをするほか,ベキ零軌道閉包の有限被覆がどのような特異点を持つかを詳しく調べる必要がある.これらの結果は,2019年の末には得られていたが,結果や議論に関して,改良の余地がないか検討を重ねてきた.しかし,具体的なアルゴリズムを普遍被覆とは限らない一般の有限被覆に拡張することは,いまだできていない.いっぽう,本研究の目標の1つに,代数幾何や表現論にあらわれる重要なシンプレクティック代数多様体を,錐的シンプレクティック多様体の中で特徴付けるという問題がある.本年度は,超トーリック多様体の特徴付ける問題に着手した.2n-次元の超トーリック多様体には,n-次元の代数トーラスが,効果的かつHamilton的に作用している.逆にこの性質が,錐的シンプレクティック代数多様体の中で,超トリック多様体を特徴付けるであろうという問題である.この問題は,Delzantの結果の代数的バージョンとみなすことができ,Losevによる研究がある.そこでの議論と,研究代表者による普遍ポアソン変形の理論がうまく結びつけば,問題解決に至ると考えている.
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