研究実績の概要 |
昨年度に引き続き, 高次元球面内の高種数極小閉曲面を構成する問題について研究を行った. 研究の動機として, 球面内の極小閉曲面を構成することで, ラプラシアンの第1固有値を最大化する閉曲面上の計量の候補が得られるということがあった. 昨年度, 高次元球面内の高種数極小閉曲面の例を多数構成したが, 自己交叉点を多く持ち, しかも種数が高くなる傾向があった(例えば, 7次元球面内に構成したものは種数49). 最大化計量を与える極小閉曲面は, 高い対称性を持つとともに, 自己交差が少ないことが期待されるので, 別の構成法を考案して, 自己交叉が少なく種数も低い例を見出すことにした. DPW法が最も有力な手法と考えられたので, 今年度はこの手法の習得に努めた. また, この手法を高次元球面内の極小曲面の構成に適用するために, 準備としてn次元球面の幾何をスピノル群Spin(n+1)によって記述し, この場合にDPW法を実装する試みに着手した. 有限グラフのユークリッド空間への埋め込みに関する最適化問題とラプラシアンの第1固有値の最大化問題について研究を行なった. 昨年度, アルキメデス多面体を始めとして対称性の高い様々な多面体の1骨格グラフについて, これらの最適化問題を解くことができたが, 今年度は, この結果を, 問題の設定段階で指定する辺長パラメータが一様でない(ただし, グラフの自己同型群で不変ではある)場合に拡張した. また, これらの最適化問題を, 距離正則とよばれる性質をもつグラフに対して一般的に解くことができた. 以上の成果を論文にまとめて, 専門誌に投稿した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染症の影響で研究時間の確保を始め, 様々な面で影響を被った. とくに, 担当業務が直撃を受け, その対応に多大な時間を費やさざるを得なかった. また, 母国に帰国した留学生に対するオンラインでの学位論文指導にも多くの時間を割くことになった. そのような中で, 今年度の研究は, 昨年度からの課題への取り組みを開始したり, 昨年度の成果を拡張したり一般化するに留まってしまった.
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今後の研究の推進方策 |
有限グラフのユークリッド空間への埋め込みに関する最適化問題とラプラシアン第1固有値の最大化問題に関する研究を継続する. 今年度の研究を通じて, Goering等による双対問題の定式化の巧みさを認識するところとなった. 彼らの研究への理解を深める意味でも, 彼らの双対問題の多様体における連続類似を定式化することを試みたい. また, 逆に, 閉曲面上でラプラシアンの第1固有値を最大化するリーマン計量を求める問題のグラフにおける離散類似を定式化する研究にも着手したい. 高次元球面内の高種数極小閉曲面で, 自己交叉が少なく種数も低い例を構成する研究を継続する. とくに, 3次元球面内の極小曲面のDPW法による構成を参考に, この手法を高次元球面の場合に実装する試みを進展させる. 離散群のヒルベルト空間へのアフィン等長作用に関して同変な離散群からヒルベルト空間への離散的調和写像の存在定理を強化する方向での研究を推進するとともに, ヒルベルト空間を一様凸バナッハ空間に置き換えて非等長的作用に関する固定点定理を一般化する方向でも考察を進める.
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