研究課題/領域番号 |
17H02850
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
盛田 健彦 大阪大学, 理学研究科, 教授 (00192782)
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研究分担者 |
杉田 洋 大阪大学, 理学研究科, 教授 (50192125)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 極限定理 / エルゴード理論 / 力学系理論 / 転送作用素 / 熱力学形式 |
研究実績の概要 |
代表者が20年ほど前に発表した1次元力学系の中心極限定理から派生する局所極限定理と観測量の分解を「ひな形となる定理」と位置づけ、その拡張にあたる工程の完成を目指した。工程の終盤においてPerron-Frobenius作用素(以下、PF作用素と略す)が作用する空間を想定以上に広げる必要性が認識されたことにより生じた研究方式の決定が難しい局面については令和3年度に持ち越しとなったものの、研究期間を延長することによって概ね打開することができた。ここまでの総括を行うには今少し時間が必要ではあるが、得られた知識と結果を当初計画にあった令和3年度以降の研究と関連付けることによってランダム力学系の極限定理に関して以下の成果を得ることはできた。 (1) ランダム力学系の歪積変換に対するPF作用素が漸近安定性をもち、標本平均型(焼鈍型)中心極限定理がGordinの条件を満たす形で成立するという条件の下で、標本毎の中心極限定理(急冷型中心極限定理)が決定論的中心化によって得られるための必要十分条件をノイズ力学系の自然な可逆拡張の言葉で与えることに成功した。その条件の一つの表現を書くと、中心極限定理を考える観測量から適当な状態空間平均によって定まるノイズ空間上の観測量に対して、ノイズ空間における中心極限定理を考えるとその極限分散が退化することである。 (2) 直積ランダム力学系に付随する歪積変換に関するPF作用素の漸近安定性の仮定の下で、ノイズ空間(標本空間)における平均収束の意味で標本毎の強混合性が成り立つことと、標本に依存せず、かつ、ほとんどすべての変換に共通の不変測度をもつことが同値であることを示した。 これらの結果については、2021年9月1日にオンラインで開催された研究集会「ランダム力学系および多価写像力学系の総合的研究」における招待講演の中で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画における6つの段階のうち、第1段階、第2段階については予定通り令和元年度までに完了し、平成30年度半ばからは次に述べる第3段階に入っていた。 (第3段階)「ひな形となる定理」はモジュラー曲面の測地流に関係した応用については不十分であったため、その後本研究代表者によって改良されている。それに対応する改良を第2段階で得られた Bamach代数についても実行しておかなければ先行研究の真の拡張とはいえない。そこで、観測量に対応する関数がこのBanach代数には属さないもののPF作用素を何回か作用させることによってその Banach 代数に落ち込むという仮定のもとで第2段階と同様の結果を示す。 段3段階は本研究課題の最重要部分であり、当初から難航するとすればこの工程であろうと想定はしていたが、終盤になって予想以上に困難であることが明らかとなり、研究の方式を再考する必要が生じ、令和2年度中に当初の目標を達成することが困難となった。ただ、第3段階の完了が令和元年度以降にずれ込んだ場合にはPoisson 法則や大偏差原理の研究を後年度に回すことで対応することが、当初計画の段階である程度検討されており、第4段階から第6段階については繰り下げて実施する方針に舵を切っていたことによって、研究計画全体でみると令和2年度以降の軌道修正後の研究計画については予定通り研究が推進できるものと見込んでいた。令和2年度までの研究の遅れについては上述のような対応によって令和3年度に新たな研究方式を採用して研究を継続した結果、第3段階の目標はほぼ完了し並行して推進する予定であった令和3年度の研究については新型コロナウイルス感染症のまん延の影響による支障が危惧されるものの、令和2年までの予定に限定するならば、期間延長など紆余曲折はあったがほぼ当初目標が達成されたといって良い。
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今後の研究の推進方策 |
本研究が掲げる3つの目標の達成に向けて設定した6つの工程のうち、第3段階までの完了を最優先課題とし、令和3年度当初の計画では第4段階と第5段階の遂行については研究着手時期を先にのばすことで、最終年度は連続時間の力学系のクラスに対して第3段階までに相当する結果の導出を試みるという研究、および第4段階で得られた結果の双曲性が一様でない力学系へ応用に関する研究を実施することを見込んでいた。しかし、この2年,とくに令和2年度においては研究組織構成員全員が遠隔研究集会や遠隔会議に関するための十分な基礎知識と技能をもっていなかったこともあり、所属機関におけるその他の業務のために本研究に協力していただく余裕もない状況となってしまった。令和3年度になって代表者、協力者共に徐々にではあるが現状への対処法を習得しつつあるものの、個々の置かれている環境には温度差があるという状況は否めない。今後は研究代表者が単独で実施できる研究と、研究協力者の協力が不可欠な研究との線引きを明確にして、さらに遠隔会議と遠隔研究集会に関する技能向上を図るとともに情報共有を進めることによって、研究協力者間の協力体制の効率化を図ることにも力点を置く必要がある。したがって、第4段階から第6段階に関わる研究については着手時期の繰り下げに加えて、各工程の進行速度の低下も考慮し期間延長も視野に入れつつ、着実に研究を遂行することに重点を置く方向で考えている。
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