研究課題/領域番号 |
17H02853
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
堤 誉志雄 京都大学, 理学研究科, 教授 (10180027)
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研究分担者 |
前田 昌也 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (40615001)
前川 泰則 京都大学, 理学研究科, 教授 (70507954)
阿部 健 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80748327)
岸本 展 京都大学, 数理解析研究所, 講師 (90610072)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 減衰項と外力付きKP-II方程式 / 大域アトラクター / 3階分散項付き非線形シュレディンガー方程式 / Raman散乱 / 初期値問題の非適切性 / Gevreyクラス |
研究実績の概要 |
令和元年度は,二つの研究成果を挙げた.まず,2次元ユークリッド空間上の減衰項と外力項付きKadomtsev-Petviashvili II方程式(これを(KP-II)と略記)に対して,エネルギー空間より弱い(即ち,広い)関数空間において弱位相での大域アトラクターの存在を,Nobu Kishimoto (RIMS), Minjie Shan (CAS) との共同研究で証明した.大域アトラクターは解の時間大域挙動を決定するという点で重要である.近年の非線形波動・分散型方程式研究の進展により,空間2次元においては,エネルギー空間より弱い関数空間での時間大域存在定理が証明されていた.エネルギー空間での大域アトラクターの存在はすでに知られていたが,エネルギー空間より弱い関数空間に属する解の漸近挙動は未解決であった.2次元ユークリッド空間全体で考えるため,コンパクト性は弱位相でしか成立しない.そこで,(KP-II)の初期値問題が,弱位相の意味で適切となることを,(KP-II)の局所平滑化効果を用いて証明した. 次に,前年度に引き続きRaman散乱項付き3階分散非線形シュレディンガー方程式に対して,Gevreyクラスにおける初期値問題の非適切性をNobu Kishimoto (RIMS)との共同研究により証明した.前年度は,Sobolev空間における非適切性と解析関数の空間における適切性を証明した.Sobolev空間と解析関数の空間の中間に位置するGevreyクラスではどうか,と言うのは自然な疑問である.今年度は,Gevreyクラスにおける平滑化効果を証明することにより,初期値問題が適切であるとすると矛盾が生じるというHadamardの論法を適用し,非適切性の証明に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は,減衰項と外力付きZakharove-Kuznetsov方程式に対し大域アトラクターの存在を証明したが,今年度は減衰項と外力付きKadomtsev-Petviashvili II方程式に対して大域アトラクターの存在を証明することに成功した.どちらも,KdV方程式の2次元拡張ではあるが,後者の方が数理物理的に重要であり,数学的には扱いが困難な方程式である.従って,前者に対する研究を,今年度は後者に発展させることが出来たという点は,数学的にも数理物理的にも意義深い. また前年度は,Raman散乱項付き3階分散非線形シュレディンガー方程式の初期値問題が,Sovolev空間では非適切となり,解析関数の空間においては適切となることを証明した.従って,Sobolev空間と解析関数の空間の中間に位置するGevreyクラスではどうなるかは,きわめて自然な問題であった.今年度,Gevreyクラスにおいても,初期値問題の非適切性を示したことは,Raman散乱項が非常に強い不安定性を持つ項であることが明らかとなった.これは数値シミュレーションを行う場合も注意が必要であることを示している.実際,John M. Dudleyらにより,物理の論文で誤った数値計算を行っているものがあることが指摘されている.そこで,より正確な数値シミュレーションを行うためには,何が必要か,理論的に示唆することは可能であろう.この方面への研究の進展が期待される.
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今後の研究の推進方策 |
Raman散乱項付き3階分散非線形シュレディンガー方程式の初期値問題については,物理学者や工学者により盛んに数値シミュレーションが行われていることから,解析関数,特にガウスパルスあるいは超ガウスパルスを初期値としたときの,解の時間大域挙動の解明は重要であろう.さらに,数学的な非適切性の概念は,物理学的には考えている方程式系の不安定性を意味していると考えられるはずであるが,その関係は必ずしも明確ではない.数学における非適切性の概念が自然現象において果たす役割の解明も重要であろう.また,初期値問題が非適切である場合,数値シミュレーションにより得られる結果の正当性はどのように解釈すべきかも興味深い問題である. 今年度までに,3階分散非線形シュレディンガー方程式に対し,3次非線形項において共鳴相互作用や準共鳴相互作用が解の正則性・特異性にどのような役割を果たすのか研究してきた.この解析をもとに,無限次元ガウス測度が,3階分散非線形シュレディンガー方程式から生成される流れによって,どのように輸送されるかを調べる.特に輸送されたガウス測度と元のガウス測度が互いに絶対連続となるかどうかは,興味深い問題である.互いに絶対連続となるとき,ガウス測度は準不変 (quasi-invariant) であるという.無限次元ガウス測度の準不変性に関しては,平行移動の場合はCameron and Martinによって,一般の非線形変換の場合は,KuoとRamerにより十分条件が与えられている.しかし,非線形波動・分散型方程式の特殊性を使った理論は,Tzvetkov,Ohらによって研究されているが,準不変であるときRadon-Nikodim微分はどのようになるかなど,まだ分かっていないことが多い.3次非線形性における共鳴相互作用や準共鳴相互作用の解析は,この方面への研究に役立つことが期待される.
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