研究課題
本研究の目的は、若い星団の母体である巨大クランプ(扁平な楕円体状のガス塊)の初期構造を観測的・理論的に追跡し、星団形成が起きるための初期条件を明らかにすることである。最近我々は、星団形成の初期段階にあるいくつかの巨大クランプが、回転を伴う収縮運動をおこしていることを発見した。これは、星団形成開始時点での母体クランプの密度構造・速度構造の解明に、重要な手がかりを与えるものである。本研究では、まず、この回転+収縮運動が普遍的な現象であることを観測的に証拠付ける。さらに、観測で得られたパラメータを基に磁気流体シミュレーションを遂行し、どのような密度構造・速度構造が実現したときに星団形成が衝動するのかを明らかにする。星団の形成過程の解明に、重要かつ決定的な知見が得られることが期待される。平成29年度は、研究対象となる巨大クランプを20個程度選定し、それらの密度構造・速度構造を調査するための観測を、野辺山45m鏡を用いて行い、そのデータ解析に取り組んだ。観測には12CO(J=1-0)、13CO(J=1-0)、C18O(J=1-0)等の分子輝線を中心に行った。さらに、2Micron All Sky Survey Point Source Catalog(2MASS点源カタログ)を活用して、各クランプに付随する星団の広がりや星数についての調査も行った。得られた結果を、初期の成果として学術論文にとりまとめた。また、磁場を取り入れた数値シミュレーションにも着手した。
2: おおむね順調に進展している
研究対象となる20個程度の巨大クランプを選定し、野辺山45m鏡を用いた観測を遂行した。45m鏡の観測では、主にC18O(J=1-0)分子輝線のデータを取得したが、その他にも12CO(J=1-0)、13CO(J=1-0)、CS(J=2-1)、SO(JN=32-21)、C34S(J=2-1)、CCS(JN=43-32)、HC3N(J=5-4)等の分子輝線のデータも取得した。さらに、近赤外線の恒星のデータベースである2MASS点源カタログより、各クランプに付随する星団の星数や広がりを調べた。また、データを解釈するためのシミュレーションの準備も行った。これらの巨大クランプを、付随する星団の有無やC18O分子輝線と星団の天球上での相関より、(1) 顕著な星団形成をまだ起こしていない Type 1、(2) 星団形成開始直後のType 2、(3) 星団の母体となったガスが散逸過程にあるType 3、に分類した。得られた分子輝線データの解析を進めたところ、いくつかの巨大クランプに、回転を伴う重力収縮運動の証拠が見られた。この運動は、楕円の形をしたクランプの長軸方向の位置-速度図上で、特徴的な2つの「目玉」として確認することができる。位置-速度図上でその目玉が確認できたのは、星団形成開始直後のType 1のクランプのみであり、他のタイプのクランプには見られなかった。また、CS、SO、CCS、及びHC3N分子輝線のデータを解析し、それを各分子の存在量に関する理論的な計算(文献値)と比較することにより、各Typeのクランプの化学的な年齢についての調査を進めた。その結果、Type2のクランプはType3よりも若い化学組成をもつが、意外なことに、Type1のクランプは他のタイプのクランプよりも、化学的に古い化学組成をもつことがわかった。
回転を伴う収縮運動を起こしていると考えられるType1のクランプには、位置-速度図の原点に対して対象的な「目玉」が顕著に観測される。しかし、単純な「目玉」ではなく、「逆くの字」状などの非対称性を伴うものもあることがわかった。どのような機構でそのような非対称性が発生するのかを調査する必要がある。今後は、その解釈のための数値計算を優先して行う。また、その結果を海外の研究者と議論する。Type 1のクランプが他のタイプのクランプよりも古い化学組成をもつことは、予想外の発見であり、どのような理由でそうなっているのかは未だに謎である。今後は、この新しい謎の解明にも取り組む。また、Type 1のクランプについては、これまでにデータを取得したサンプルが少ないので、Type 1やType2のクランプのサンプルを増やしたい。新たなサンプルとしては、北の石炭袋(NCS)や、オメガ星雲(M17)近傍の赤外線暗黒星雲(Infrared Dark Cloud)を想定している。さらに、Type2クランプの中心部分を分解するための観測プロポーザルを、SMAやALMAに提出し、1秒角スケールの角分解能のデータの取得を目指す。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (11件)
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