研究課題/領域番号 |
17H02863
|
研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
土橋 一仁 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (20237176)
|
研究分担者 |
中村 文隆 国立天文台, 理論研究部, 准教授 (20291354)
松本 倫明 法政大学, 人間環境学部, 教授 (60308004)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 電波天文学 / データベース天文学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、若い星団の母体である巨大クランプ(扁平な楕円体状のガス塊)の初期構造を観測的・理論的に追跡し、星団形成が起きるための初期条件を明らかにすることである。最近我々は、星団形成の初期段階にあるいくつかの巨大クランプが、回転を伴う収縮運動をおこしていることを発見した。これは、星団形成開始時点での母体クランプの密度構造・速度構造の解明に、重要な手がかりを与えるものである。本研究では、まず、この回転+収縮運動が普遍的な現象であることを観測的に証拠付ける。さらに、観測で得られたパラメータを基に磁気流体シミュレーションを遂行し、どのような密度構造・速度構造が実現したときに星団形成が衝動するのかを明らかにする。星団の形成過程の解明に、重要かつ決定的な知見が得られることが期待される。
平成30年度は、前年度の研究結果をまとめつつ、Type 1クランプの位置-速度図を解釈するための数値計算に取り組み、その解釈のための議論を行った。議論には、海外の研究者も参加した。また、対象であるクランプのサンプル数を増やすための観測を野辺山45m鏡で行ったほか、北の石炭袋(NCS)やM17等のいくつかのクランプに対してJames Clerk Maxwell Telescope(JCMT鏡)で行った。さらに、Type 1が化学的に古い組成をもつ原因について、M17での研究結果をもとに、理解を深めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、星団を形成する1000太陽質量程度のクランプを、(1) 顕著な星団形成をまだ起こしていない Type 1、(2) 星団形成開始直後のType 2、(3) 星団の母体となったガスが散逸過程にあるType 3、に分類している。平成30年度初頭は、Type2クランプの位置-速度図上に現れる「逆くの字」等の奇妙な特徴を解釈するための磁気流体シミュレーションの遂行に専念し、基本的な計算データの整備を完了した。その計算結果の一部について、海外(仏国等)の研究者を交えた議論を行い、「逆くの字」等の非対称な特徴が分子輝線の光学的厚さの効果を取り入れれば自然に解釈できる可能性を思いついた。平成30年度末現在、実際の観測データと定量的に比較検討するための準備を進めている。
また、研究対象となるType0及びType1のクランプのサンプル数を増やすために観測を野辺山45m鏡で引き続き行った。Type2クランプの中心部の細かい構造を解明するための干渉計(SMA、ALMA)による観測プロポーザルは残念ながら採択されなかったが、JCMT鏡による200GHz帯の観測をいくつかの天体について行うことができた。
前年度、力学的には最も若いはずのType0クランプには、3タイプ中最も古い化学組成をもつという事実を発見した。その暫定的な解釈として、我々は、古い化学組成をもつType1クランプは長期間何らかの理由で収縮できず(よって星団も形成できず)にいるクランプである可能性を検討した。平成30年度になり、我々はType1クランプであるM17-SWexに対してN2H+等分子輝線や近赤外線の偏光観測を遂行し、強い星間磁場がクランプの収縮を妨げている原因であることを、定量的に示すことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年度(令和元年度)は、野辺山45m鏡及びJCMT鏡によるデータ解析を行い、M17-SWexで得られた研究結果をさらに発展させたい。また、磁気流体シミュレーションにより得られた計算データからC18O(J=1-0)等の分子輝線を再現するためのプログラムを作成し、野辺山45m鏡やJCMT鏡で得られた実際の分子輝線データと定量的な比較研究を行う。これにより、巨大クランプの内部構造の解明にチャレンジする。年度末には、一連の研究成果をとりまとめたい。
M17SW-exの研究では、星間磁場が星団形成に深く関与していることが強く示唆されている。すなわち、強い磁場がクランプの収縮を妨げている間は星団形成は起きず、クランプから磁場が抜けるか、周囲からの質量降着によりクランプが磁場で支えきれないほど大きな質量を獲得した時点で、星団形成が起きると考えられる。このような描像は従来の理論的な予想とよく一致するが、それを証拠付けるためには、多数のクランプについて、磁場の計測が必要である。本研究の発展として、将来的な磁場の広域計測の実現性について、検討したい。
|