研究課題
本年度は大きく分けて三つのことを行なう予定であった。1)高速分光器の開発、2)高速分光器の調整、3)M型星フレアのテスト観測である。しかし高速分光器の製作に取り掛かろうとしていた本年度7月に、せいめい望遠鏡の焦点面装置と小型装置フランジを含む装置ローテーターの仕様が変更され、高速分光器は小型装置フランジに取り付けられるため、省スペースに対応した光学系へ設計を見直す必要が生じた。このため、1)については本年度は再設計を行なった。その概念設計は終了し、詳細設計を進めている。2)については来年度(最終年度)に行なうこととなった。3)については、高速分光器を使用したものは行なえていないが、他の望遠鏡を用いて検討を進めた。兵庫県立大学西はりま天文台のなゆた望遠鏡を使用して行なったM型星EV Lacの観測では、フレア中の輝線輪郭の変化が現時点での世界最高速で捉えることができた。フレア中ではHα輝線の増減光と中心波長に対しての非対称性の変化が顕著に捉えられた。この観測的特徴をきちんと説明できる解釈は出せていないが、高速分光器の開発によってさらに時間分解能を上げた観測が可能になることで、より詳細に恒星フレアのメカニズムに迫ることが可能となることを示す結果であった。この成果はHonda et al. (2018, PASJ 70, 62)で出版された。他にも、恒星スーパーフレアの機構についての基礎研究となる、ケプラー宇宙望遠鏡のデータを用いた太陽型恒星の黒点の生成・発展・消滅過程の研究の論文の出版(Namekata et al. 2018, ApJ 871, 187)やスーパーフレアについての国際研究集会での招待講演などもあった。また、恒星スーパーフレアが系外惑星に対して及ぼす影響の検討も進めた。
3: やや遅れている
本年度もまたせいめい望遠鏡の装置ローテータ―の仕様の変更があり、光学系の設計変更が余儀なくされた。このため、装置の開発については半年程度の進捗の遅れがあった。しかし、既存のケプラー宇宙望遠鏡を用いた研究や、高速測光器以外を使う基礎的な研究については順調に進捗し、成果の発表も行なわれている。
高速分光器の開発については、装置ローテータ―製作の進捗に合わせて慎重に進めることとする。観測面では引き続きケプラー宇宙望遠鏡や他の地上望遠鏡を使った研究を進める。せいめい望遠鏡が2019年2月末に稼働を開始し、最初の観測装置(KOOLS-IFU)を用いた研究を進める。さらに、太陽フレアのモデルに基づいた大気構造やエネルギー注入によって、連続光や輝線輪郭がどのように観測されるのかのモデル計算にも研究の幅を広げ、高速分光器の稼働に備える。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 13件、 招待講演 5件)
The Astrophysical Journal
巻: 871 ページ: id.187
10.3847/1538-4357/aaf471
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 70 ページ: id.62
10.1093/pasj/psy055