研究実績の概要 |
前年度に引き続き,Fermi衛星のガンマ線データを中心とした,高銀緯(近傍)の分子雲・原子雲の解析を進めた。カメレオン分子雲領域の解析では,ガンマ線データに基づき星間ガス密度とダスト放射の間の非線形成を見出し,星間ガスの性質(光学的厚さやガス総質量)について詳細な議論を行った。また非線形成を取り込むことで,宇宙線強度が直接観測と矛盾しないという新しい結果が得られた。この結果はHayashi, Mizuno, et al. 2019 (ApJ 884, 130)として出版された。また強いCO分子雲輝線の見られない原子雲領域の解析では,南北に分けた解析を行い宇宙線密度がほぼ一定であることを実証した。加えてスピン温度の仮定によらず星間ガス密度と宇宙線密度の測定に成功した。数100MeV程度以下の低エネルギーではモデルとの系統的なずれがみられ,宇宙線スペクトルの折れ曲がり由来の可能性を指摘した。これらの成果はMizuno et al. 2020 (ApJ 890 120)として出版された。また宇宙線直接観測(AMS02, Voyagerの公開データ)とガンマ線観測を合わせた宇宙線スペクトルのモデル化の枠組みを開発した。宇宙線伝播を露わに解く先行研究に対し,簡単な(ただし必要十分な自由度を持った)解析関数を導入することで計算コストを大幅に低減しつつ遜色ない精度を実現できた。予備的な結果を2020年3月の日本物理学会で報告し,完成度を高めたものをフェルミグループ内で報告をした。現在はこの宇宙線スペクトルモデルの枠組みを活用し,また中性水素からの21cm線の輝線幅を利用したガスモデル・ガンマ線解析に取り組んでいる。
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