最終年度(COVID19による期間延長のため令和2年度・3年度)は,宇宙線スペクトルのモデルの枠組みの改良と,HI(中性水素)の輝線幅を用いた星間ガスのモデル化に取り組んだ。後者はHI輝線幅が広いガスは光学的に薄いという新しい仮説に基づくものである。これらをMBM53-55分子雲・Pegasus loop領域に適用し,幅の広いHI雲領域のガンマ線/輝線強度比が小さいことを確認した。これは予想(光学的に薄い)を裏付けるものである。宇宙線スペクトルモデルの枠組みとPlanck衛星によるダスト放射データも用いることで,(1)HI輝線・CO輝線の弱い,いわゆる"dark gas"の比率が20%程度であること,(2a)dark gasの組成として,「光学的に厚いHI」と「CO輝線の弱い分子ガス」がほぼ等量であること,(2b)CO輝線の弱い分子ガスがより集中した空間分布をしていること,(3a)星間空間の宇宙線スペクトルが,地球で直接観測された宇宙線強度と10%内で一致すること,(3b)また数GeV付近に,single power-lawからのずれ(折れ曲がり)を持つこと,などを見出した。(3a)は従来高銀緯領域で指摘されていた矛盾を解消するもので、これも含め,(1)以外は今回初めて明らかになった知見である。このように星間ガス・宇宙線の双方で大きな成果をあげることができ,国内会議・国際会議で報告するとともに投稿論文としてまとめた。(2022年5月現在査読中で,間もなく受理の見込みである)
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