研究課題/領域番号 |
17H02875
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 史宜 東北大学, 理学研究科, 教授 (60503878)
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研究分担者 |
石渡 弘治 金沢大学, 数物科学系, 助教 (40754271)
横崎 統三 東北大学, 理学研究科, 助教 (80779322)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | WISP / アクシオン / 隠れた光子 |
研究実績の概要 |
石渡は、核子との相互作用が強く抑制される暗黒物質候補粒子に関する研究を遂行した。この候補粒子と核子との相互作用は量子補正によって記述されることを示し、その散乱断面積の正確な理論予言を与えた。横崎と高橋は,隠れた光子と我々の光子が大きな運動項混合を持つ場合、力の大統一と電荷の量子化を説明することができることを示した。また、このセットアップにおいてアクシオンを考えると、我々の光子との結合が非常に大きくなり、将来実験で容易に観測できることを明らかにした。高橋は隠れた光子が暗黒物質となる場合に問題となっていた非相対論的な隠れた光子の生成機構として,アクシオンとの結合を通じた非摂動効果を提案し,解析的およびlatticeを用いた数値計算を用いてその存在量と将来実験の感度について調べた.また高橋はインフレーションスケールがQCDスケール以下であった場合,QCDアクシオンが僅かであるがポテンシャルを獲得し,その結果として十分長くインフレーションが続くのであればアクシオン初期値が量子ゆらぎと古典的運動の平衡状態で定まることを示した.その結果として従来初期振幅に微調整が必要だと考えらていた非常に大きい崩壊定数をもつQCDアクシオンの場合であっても,初期振幅の微調整の必要なくダークマターとなりうることを示した.また本科研費雇用の松井とともに高橋は,最近提唱された超弦理論におけるSwampland Conjectureにおいて支持されるクインテッセンスシナリオの等曲率揺らぎを議論しベクトル型暗黒物質がそのConjectureにおいて有力な候補であると指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研費メンバーである石渡,横崎,高橋と雇用研究者の松井はそれぞれ極弱相互作用粒子を用いた新しい宇宙論シナリオを構築し,その観測実験的含意を調べるなど順調に成果をあげている.単に個々に成果をあげるだけにとどまらず,共著論文を通じてメンバー間での有機的かつ密な連絡がとれており,研究の最前線へ対応できている.その最たる例が松井と高橋によるswampland conjectureとeternal inflationに関する論文であり,その後多くの関連論文が発表される中,かなり初期の段階でeternal inflationという重要なトピックに関して意味のある研究成果をあげることができた.
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今後の研究の推進方策 |
石渡は、暗黒物質が標準模型粒子と微弱な相互作用を通じ、有限寿命で崩壊する可能性に着目している。その崩壊によるシグナルを宇宙線観測実験で捉えるため、崩壊によって生成される種々の宇宙線粒子を広周波数領域に渡ってシミュレーションする。 力の大統一と電荷の量子化に存在が裏付けされた隠れた光子が質量を持つ場合、ニュートリノ振動のように我々の光子と隠れた光子が振動し互いに移り合う。このとき、隠れた光子は宇宙論的・実験的に検出可能であり、横崎はその方法と制限を徹底的に明らかにする。さらに,ミューオンg-2は実験の値と理論の予言値が大幅に乖離しており、これは標準模型を超える新しい物理の存在を示唆する。LHCによりTeVスケールの物理は大きく制限されており、これよりも数桁エネルギースケールが低く結合の弱い新しい物理の存在が示唆される。横崎は世代間で電荷の違う隠れた軽いゲージボソンでミューオンg-2の乖離を説明するとともに、宇宙論的・実験的にこの新粒子を検出する方法を明らかにする。松井は,最近活発に議論されている超弦理論における様々な理論的な制限やconjectureとそのアクシオンに対する理論的な制約について包括的に検証する。高橋は研究を総括するとともに,ストリングアクシオンの初期分布がインフレーション中に平衡状態にあった場合についてその宇宙論的含意を明らかにする.
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