研究課題/領域番号 |
17H02878
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳田 勉 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任教授 (10125677)
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研究分担者 |
松本 重貴 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 准教授 (00451625)
白井 智 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任助教 (10784499)
野尻 美保子 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (30222201)
伊部 昌宏 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (50599008)
高橋 史宜 東北大学, 理学研究科, 教授 (60503878)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 超対称性模型 / 暗黒物質 / 高エネルギー加速器実験 / 高輝度加速器実験 |
研究実績の概要 |
初年度は今後の方向性の指針となる研究を行い以下の実績を得た。松本は伊部と高スケール超対称性模型の重要な予言であるウィーノ暗黒物質の間接検出において重要となる矮小楕円体銀河の暗黒物質分布推定に関する様々なアルゴリズムを研究し、最良と考えられるものを提案した。それに基づいてシミュレーションも行い、系統誤差の抑制について定量的に明らかにした。白井は高スケール超対称性模型で予言される荷電消失トラックの探査に関する新しい手法を提案した。将来加速器実験でどのような検出器、解析が必要になるのかを調べ、従来の探査法に比べ、質量の大きな粒子や小さな寿命をもつ粒子に関してより有効であることも示した。野尻はHL-LHC やHE-LHCアップグレードにおいて、暗黒物質シグナルの感度をNLO 計算を用いて精度の高い見積もりを行った。モノジェット事象での将来の感度を明らかにし、暗黒物質生成のシナリオが区別できることを明らかにした。柳田と伊部は、他の極めて興味深い暗黒物質の候補であるAxionについて研究を行った。AxionがQCDに存在している深刻な問題であるCPの破れの問題を解決するからである。Axionの存在は大局的U(1)対称性に基づいているが、一般に大局的対称性は量子重力効果によって破れてしまうと考えられている。両者はこの問題を解決できるAxion模型を構築した。またその機構を超対称性の力学的破れの模型と組み合わせ高スケール超対称性模型で要求される対称性の破れと axion 探索と矛盾しない崩壊定数の両方を実現する模型を考案した。高橋はハイパーチャージと隠れたU(1)ゲージとの大きな運動項混合によってゲージ結合定数の統一が実現するシナリオにおいて、QCDアクシオンと光子との結合が最大でO(100)倍程度大きくなりうる事を明らかにし、将来のアクシオン探索実験の発見が容易となることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究計画初年度であり、今後の研究の方向性を決めるべき研究が進められた。具体的な実験に密接した現象論的な側面の研究では、次の2つに焦点を当て研究が行われた。一つは高スケール超対称性模型の重要な予言の一つであるウィーノ暗黒物質の間接検出可能性の研究である。この研究では特に我々の銀河に付随する矮小楕円体銀河(dSph)のガンマ線観測に注目されたが、その際にdSph内の暗黒物質分布推定に関する不確実性が大きいことが知られている。この不可実性を抑制する新しい解析アルゴリズムを提案したため、今後は実データを用いて現在どの程度まで不確実性を軽減できるのかを定量的に明らかにする予定である。一方加速器に関する研究では、近い将来に予定されている高輝度LHC実験において、標準模型過程(特にレプトン対生成)の精密測定やモノジェット事象測定に注目し、上記ウィーノ暗黒物質からの輻射補正の影響や精度の高いシグナルを正確に見積もる研究等が行われた。今後現実的なシミュレーションを通し、より定量的な議論に基づいた研究が進められる予定である。一方理論的な側面の研究としては、強い相互作用のCP問題に焦点を当てた研究が行われた。特にPQ対称性模型が本質的に持つ大局的U(1)対象の破れに関する問題を解決する模型が提案されたが、今後この模型と子スケール超対称性模型との統一的な枠組みに関する研究が行われる予定である。またこれらの模型を考えることで新たに現れるシグナルとその検証可能性についての活発な議論も期待されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の具体的な推進方策は以下の通りである。松本は伊部とともに現実の撮像と分光データを用いて、矮小楕円体銀河の暗黒物質分布を推定し、高エネルギー超対称性模型に対する現時点での制限を定量的に明らかにする。白井は実験研究者とともに荷電消失トラック探査のバックグランド推定及び、抑制の研究を行う。昨年度までの研究は簡略化した実験セットアップに基づいていた。しかしながら、現実的なセットアップでは低エネルギーのトラックが大きなバックグランドをもたらす可能性がある。野尻はHL-LHC とHE-LHC 実験で探索可能な新物理についての包括的な研究を行う。特にフレーバー物理に対する感度を中心に検討を行う。また、ニューラルネット等を使ったイベントの解析の可能性を検討する。伊部と柳田はゲージ対称性に基づく Peccei-Quinn 機構に現れるゲージ対称性を B-L 対称性と同一視できるかどうかという問題に取り組む。さらに B-L、超対称性、Peccei-Quinn 対称性の破れを同時に実現する模型についても考察する。これにより現在の宇宙物理の最大な問題の中の二つの問題(宇宙のバリオン数の生成と暗黒物質)を同時に解決する模型の構築を目指す。高橋は超対称性純ヤン・ミルズゲージ理論におけるゲージーノ凝縮の崩壊が与える重力波の大きさと将来の検出可能性に関して精密に評価し、ゲージ階層性問題とグラビティーノ問題の観点から考察を加えることで超対称性の破れの大きさに関して新しい知見を得る。
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