研究課題/領域番号 |
17H02883
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸本 康宏 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (30374911)
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研究分担者 |
小川 泉 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (20294142)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / アクシオン / ALP粒子 / マイクロ波共振空胴 |
研究実績の概要 |
本研究では,フォトニック結晶技術を用い,基本モード(TM010)で共振する大型の共振空胴を研究・開発する.フォトニック構造とは周期的に金属または高誘電体を配置した構造であり,これよって共振周波数が決まり,空胴のサイズには寄らない.この原理によって,アクシオン探索等で必要な大型空胴を開発することが,本研究の目的である, H30年度は,まず,前年度デザインしたテスト空胴を作成し,その周波数分布と電場のプロファイルを測定した.テスト空胴はアルミ製で直径20センチ長さ10センチの円筒空胴に,直径4ミリのアルミ棒を20ミリ間隔の正方格子に配置したもので,共振周波数は5.7GHzである. このテスト空胴の周波数特性はベクトルネットワークアナライザで測定した.また,電場プロファイルは,直径4ミリの無酸素銅球を,空胴内に導入し,その周波数変化の様子から電場を測定した.(電場は,周波数変化量Δf/f (f は共振周波数)の平方根に比例する.) この結果,作成したテスト空胴の共振周波数,電場プロファイル共に,有限要素法によるシミュレーションとは全く異なる振舞を示した.本研究では,有限要素法による電磁場のシミュレーションを用いており,これは完全に確立した手法と考えられ,テスト空胴に何か問題があると考えられる.例えば,アルミ表面の酸化被膜によって電気的接触が不十分である等である.これら問題点の洗い出しのため,アルミテスト空胴の改造を行うと共に,無酸素銅製の小型空胴2基(厚さ1センチで,10センチ程度)を作成した.これら空胴の周波数特性と電場プロファイルを測定した結果,シミュレーションを良い一致を示した.このことは,フォトニック空胴の原理的実証を意味し,大きな進捗と言えるが,その一方で,これより少し大型のアルミ空胴において,なぜシミュレーション結果と大きく食い違うのかが未解決の問題として残った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アルミ製の共振空胴を作成し,その共振周波数と電場プロファイルを測定したが,これらの様子はシミュレーションと全く異なっていた.具体的には,フォトニック構造の要である,アルミ棒による周期構造が全くない状態の空胴の振る舞いに近いものであった.これは本研究の基本原理の否定につながるため,非常に困難な状況と言えた. この状況下,極低抵抗計を急きょ入手し,アルミ棒とアルミ共振空洞の接触を定量的に測定するなどして,電気接触が完全ではないことが分かった.一方で,マイクロ波空胴の専門家との議論等を通じ,マイクロ波空胴のテストでアルミ空胴を利用することは常識であり,接触によって問題が生じるとは考えにくいことも分かった. そこで,小空胴を2個作成し,それらの様子から,問題点の発見と解決を模索した.この小空胴の1つは,電気接触を完全なものとするため,無酸素銅製で加工は銀ろうを用いた.もう1つは,表面を銀メッキし,フォトニック構造と空洞本体をねじ止めし,構造周期を可変とした.結果,前者・後者共にシミュレーションと一致する振舞を見せた.具体的には,共振周波数の分布と電場プロファイルは期待の通りであった.特に,後者の空胴では,構造周期を変えることで,周波数も電場プロファイルともに変化し,フォトニック結晶構造が期待の通り機能していることを明確に示した.その一方で,シミュレーションでは現れない共振モードが見つかる等,空胴を完全に理解できているわけではない.そもそも,アルミテスト空胴がなぜシミュレーションと異なる振舞をしめすのか,この点が今後の課題として残っている. これら問題とは別に,周波数掃引機構の開発が必要であり,この点については進捗があった.上記の銀メッキ空胴で,周波数掃引機構を実際にテストし,周波数変動に理解しきれない部分があるものの,周波数掃引範囲を7.4%から9.4%に向上させることに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
小空胴によって,フォトニック結晶による空胴作成が原理的には可能であることが確認されたので,直径20センチ長さ10センチのアルミテスト空胴でフォトニック結晶構造が機能していない点について調査を進める.直径4ミリのアルミ棒で結晶構造を作成しているが,このアルミ棒と空洞本体の電気接触が充分でないことが原因の1つと考えられる.アルミは表面に酸化被膜を形成する.この皮膜は機械的に弱く,マイクロ波の応答にはふつう影響を与えないが,アルミ表面をメッキするなどして,電気接触の向上を図る. もう1つの方向性として,シミュレーションの改善である.これまでの研究では,固有値解析によって共振周波数を調べてきた.加速器に用いる空胴などでは,これが標準的な手法であるが,本研究のマイクロ波空胴では,Sパラメータ解析を行っているため,シミュレーション上でもSパラメータの応答を見るべきと考えている. また,10センチスケールでの小型空胴で動作が確認されているため,これを徐々に大型化することを考えている.小空胴作成の際に,Z軸方向を波長よりも短くしており,このことが影響しているかどうか,そしてZ軸方向長さが効く場合,小空胴を多段に直列に連結できるか,この点が大型化へのキーポイントとなる. 最後に,周波数変調機構であるが,これまでの機械的な手法に加え,発想を転換して,空胴内に低誘電損失の液体を導入することも試みる.シミュレーションでは機能することが確認されており,有望と考えている.更に,液体では物質が限られるため,低損失高誘電率の微粒子(例えば高純度アルミナ)も試すつもりである. 以上の手法により,研究最終年度には,周波数可変の大型共振空胴を完成させたい.
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