本研究は、中性子星連星合体の瞬間を観測できるような、キロヘルツ帯域で高感度を有する重力波望遠鏡の開発を目標としている。我々が提案する手法は、レーザーの輻射圧により遠方の鏡をつなぐ光バネと呼ばれる技術の応用で、ダークフリンジに制御された干渉計の信号リサイクル共振器内に光パラメトリック増幅装置を配し、光バネの共振周波数をキロヘルツ帯まで向上させることで信号を増幅しようというものである。 東京工業大学の構内に構築した信号リサイクル干渉計実験では、マイケルソン干渉計、信号リサイクル共振器、パラメトリック増幅、二倍波生成の4つの自由度を同時制御することに成功した。装置全体をエンクロージャで囲み、さらにリアルタイムデジタル制御を導入し、干渉計の低周波での安定性を向上させた。2019年度までに片腕と信号リサイクル鏡で構成された低フィネス共振器でパラメトリック増幅を確認していたが、2020年度は干渉計の両腕を制御した状態で、さらに増幅度の高いパラメトリック増幅を確認することに成功した。 信号リサイクル干渉計実験では実効的な光量が低く、光バネを観測することはできなかったが、並行して進めているファブリーペロー共振器実験では光バネを観測することに成功し、さらにパラメトリック増幅器とキャリア光の相対位相を制御することにも成功した。2019年度は、非線形光学結晶を導入すると光バネが見えないという現象が生じ、その原因が不明であったが、結晶の熱膨張によるものであることが分かり、結晶を交換することでその問題を解決することに成功した。現時点で、非線形光学結晶にポンプ光を導入することによる光バネのシフトのようなものを観測することに成功しており、本研究の目標はぎりぎり達成できたと考えている。
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