研究課題/領域番号 |
17H02887
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小松 雅宏 名古屋大学, 教養教育院, 准教授 (80345842)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ニュートリノ / タウニュートリノ / 原子核乾板 |
研究実績の概要 |
本年度の目的として設定していた Compact Emulsion Spectrometer(CES)での SHiP 実験にて必要となる10GeV/cの運動量までの測定の実証試験を行う事を目的としたテスト実験を2017年8月に計画通りに実施した。 テスト実験はCERN East Area のPS T9 ビームラインにてスペクトロメータとして機能させるために必須となるマグネット(MNP17)による1Tの磁場中で、30mmギャップを用いた CES の実証試験である。 本試験では、原子核乾板の支持体の最適化を目的とした複数のベース材の比較及び、実際にCESを作成して運動量測定を試みる為の試験を行った。特に過去のテストにおいて失敗した部分の照射密度や運動量毎にビームを識別するために照射毎にモジュールを傾けて実施するが、その際の傾ける方向を磁場による曲り方向とは直行した方向に取るなどの失敗からの経験も生かして万全の態勢で行った。 先行研究では運動量として2GeV/cまでの実績はあったが、それを10GeV/cという一桁上の運動量まで実証することを目的としている。10GeV/cで期待できる磁場による曲りの大きさは3.4マイクロメートルと極めて小さく、原子核乾板の変形を如何に抑えるかが極めて重要となってくる。そのためにこれまで原子核乾板の支持体として用いてきたポリスチレンやトリアセチルセルロース(TAC)とは一桁性能の良いガラスを用いたチェンバーも用意した。 最初の変形具合を見る照射実験の結果で確かにガラスベースを用いた原子核乾板が極めて良好な低変形特性を確認することが出来た。これらの結果を踏まえてCESの解析を進めている状況である。テスト実験の照射は極めて良い状態で行えたことを確認しており、良い結果が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画調書に示した通り、2017年度にCERN PS でのテスト実験の実施を計画通りに行い、その解析も今のところ大きな障害に直面することなく進んでいる。 特にCESの実現に決定的に必要な大面積でのアライメントを可能とする変形の小さな原子核乾板をベース材を色々試す中でガラスベースを実現出来た事が大きい。 変形を小さく抑える事が出来れば原子核乾板の潜在的な解像度を引き出すことが可能で、今後のテスト実験結果の解析でCESとしての性能を十分実証出来る確信が得られたことは大きな前進である。当初計画で目的としているCESの性能実証部分は十分に計画通り進んでいる。 他の目的であるSHiP実験のTDRに向けた資料の準備も順次進めており、計画から大きく遅れる事も無い状況である。また、これらの作業の中で検出器の設計の最適化も進み当初のプロポーザル時点よりも大きな性能向上が見込めそうな事がはっきりしてきた。 この様な状況を踏まえて、近研究の進捗は概ね順調と判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の課題は、まず2017年度テスト実験のCES部分の解析を完了して、その性能を実証する。次のステップとしては如何に実際の実験においてCESを作り上げて実装していくかの課題に取り組んでいく。 CESは大きなギャップを持っている為にニュートリノ検出器部分のECC(Emulsion Cloud Chamber)とは蓄積可能なトラック密度の限界値が1桁以上低くなる。 そのために頻繁な交換は必須であり、以下に簡単にCESを作り、また交換を行うかが実験遂行上の大きな課題となる。この課題の案としてはCESのカートリッジの様なものを作り上げる事である。遮光・並行性を確保したカートリッジの開発は実験の為に極めて重要である。今後は次のステップとして実際の実験に使える装置としての開発に重点を置く。
|