研究課題/領域番号 |
17H02889
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北口 雅暁 名古屋大学, 現象解析研究センター, 准教授 (90397571)
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研究分担者 |
吉岡 瑞樹 九州大学, 先端素粒子物理研究センター, 准教授 (20401317)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 対称性の破れ / 素粒子物理実験 / 原子核物理実験 / 偏極中性子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、各種原子核の中性子共鳴吸収反応、特にガンマ線放出を伴う反応の角相関項を測定することと、そのために必要な偏極中性子ビームラインを開発・構築することである。これにより原子核の共鳴状態を統計的に取り扱うことができること実証する。この統計的取り扱いが正当化されると、CP対称性を破る素過程が原子核反応の対称性の破れとして大幅に増幅されることが導かれる。これを用いた時間反転対称性の破れの探索は、標準理論を超える物理に対して中性子電気双極子能率を凌駕する感度を持ちうる。 平成29年度は偏極中性子ビームラインを構築とその試験を行った。中性子偏極には3Heスピンフィルターを用いる。これは、中性子吸収断面積が3He原子核と中性子の偏極の平行・反平行によって大きく異なる(0b と 5333b)ことを利用している。ビームライン外で偏極させた3HeガスのセルをJ-PARC物質生命科学実験施設のパルス中性子ビームラインBL04 ANNRIに持ち込んだ。実際に偏極中性子ビームが取り出されることを確認した。さらに、139La原子核の(n,γ)反応のスピン依存性を測定し、文献値と無矛盾な結果を得た。J-PARCの大強度ビームを用いることで、このスピン依存性が反応終状態に依らないことを示すなど、新たな実験の可能性を切り開いた。 興味ある共鳴吸収反応の中性子の運動エネルギーは1eV~100eV領域であり、この中性子を偏極させるには大型のスピンフィルタが必要となる。大型3Heガスセル作成のためのシステムと、3He原子核偏極のためのスピン光交換ポンピング法のためのレーザーシステムを、名古屋大学内に構築中であり、必要な物品の調達・作成を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
J-PARCとの共同研究により、既存のスピンフィルタを用いて偏極中性子ビームラインを構築し、実際に偏極中性子を用いた物理測定を行うことができた。139La原子核の(n,γ)反応のスピン依存性を測定し、文献値と無矛盾な結果を得た。この成果はすでに学会や国際会議で報告している。この測定は、本研究課題の目的である(n,γ)反応の各種角相関項の測定のための基礎データとなり、最終的に必要な測定体系や測定時間を見積もることができるようになった。また、産業技術総合研究所との共同研究を開始し、大型スピンフィルタの開発のための大強度レーザーの開発を開始することができた。これらのことから、本研究課題は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は平成29年度に引き続き、既存の偏極システムを用いた物理実験と、3Heスピンフィルタの開発を並行して行う。従来のスピンフィルタはビーム進行方向と平行な偏極を取り出していたが、ビーム進行方向と垂直な向きの偏極を取り出す体系を開発する。これにより、調べることができる(n,γ)反応のスピン依存角相関項の種類が拡大する。139La原子核の(n,γ)反応の、偏極に対する左右非対称性を測定することから始める。ビームラインの空間的制約や周辺磁場環境を考慮して偏極保持コイルを設計する。より高い中性子偏極を目指し、大型・高圧のHeガスセルの開発も行う。ビームライン上で常時3He原子核を偏極させ続けるために、in-situスピン偏極システムの開発を開始する。これらのオフラインテストを行うために、名古屋大学内に大型3Heガスセル作成システムと、3He原子核偏極のためのスピン光交換ポンピングシステムを構築する。平成30年度はじめには実際にシステムが稼働する予定である。 平成31年度は、開発した3HeスピンフィルタをJ-PARCビームラインに本格的に導入し、さらに角相関項の測定を進める。これによって原子核の共鳴状態を統計的に取り扱うことができるか否かを議論する。
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