研究課題/領域番号 |
17H02893
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井手口 栄治 大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (80360494)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 殻構造 / 不安定核 / 魔法数 / 磁気モーメント / 非弾性散乱 / ガンマ線核分光 / 荷電粒子検出器 / ゲルマニウム検出器 |
研究実績の概要 |
本研究は中性子過剰核における殻構造変容の起源を解明する事を目的としている。そのために殻構造の微視的構造を直接反映する物理量である不安定核の磁気モーメント測定法を開発し、国際協力に基づくガンマ線検出器や新たに開発する実験装置を用いて多様な原子核で核分光実験を実施し、系統的な研究から変容メカニズム解明を目指すものである。 本年度は実験に不可欠な装置開発、検出器の整備を進め、インド・タタ基礎研究所(TIFR)や原子力機構、理化学研究所での実験計画を検討した。 1.プランジャー装置開発、真空槽の設計:本研究では磁気モーメント測定で原子核反応による高磁場発生のためRecoil in Vacuum(RIV)法を利用するが、高磁場中の歳差運動からのガンマ線の角度相関を時間の関数として得るために標的とその下流に配置する荷電リセットフォイル間の距離を高精度で変えられるプランジャー装置の開発をTIFRのグループと共同で行った。更に標的-リセットフォイル間距離を高精度で得るため、フォイルのビーム照射に伴う熱変形に対する位置フィードバック機構の制御系の設計・製作を進めた。またプランジャー装置、荷電粒子を組み込むための真空散乱槽の設計を行った。 2.散乱粒子検出器開発:標的での非弾性散乱後に放出されるガンマ線を測定する際のビームの散乱角度に応じたドップラーシフトを補正して高分解能ガンマ線測定を実現させるため散乱粒子を高い位置精度で検出する必要がある。そのために同心円状の両面電極分割穴あき型シリコン検出器による散乱粒子検出器系の設計・製作を行った。 3.ガンマ線検出器系の整備:実験で使用するゲルマニウム検出器の保守・メンテナンスを進めた。 4.データ収集系の整備:多チャンネルで高速データ収集を行うためのTDCの整備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度の研究実施計画として実験に不可欠な装置開発、検出器の整備に関して以下の項目を計画していたが、概ね予定通り進めることが出来た。 1.標的-検出器用真空槽の設計・製作:標的-荷電リセットフォイルの位置を高精度で変えられるプランジャー装置のテスト機をTIFRグループと共同で設計・製作する事が出来た。またフォイルの熱変形に対する位置フィードバック機構の制御系を製作できた。ここに学生アルバイも活用した。 2.散乱粒子検出器開発:同心円状の両面電極分割穴あき型シリコン検出器、フィードスルー等を購入し、それによる散乱粒子検出器系の設計・製作を行った。また大強度ビーム使用に備えてマルチアノードPMTによる散乱粒子検出器開発の設計を始めた。来年度に検出器の性能評価を行うためのテストベンチの設計、必要部品の調達を行った。 3.ガンマ線検出器系の整備:実験に使用するGe検出器の保守・メンテナンスを進める事ができた。単純作業について学生アルバイトを活用した。米国・中国の研究者と定期的なコンタクトを取り、CAGRA国際共同プロジェクトでの実験スケジュールについて議論・検討を進めた。 4.データ収集系の整備:多チャンネルでの高速データ収集に備えてTDCの整備を行った。また米国の共同研究者とデジタイザーデータ収集について議論を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の予定通りに以下の項目にあげた標的装置、散乱粒子検出器の開発を進め実験準備を行う。同時に国内外の加速器施設を利用したテスト実験、本実験を行う。これにより中性子殻構造変容メカニズムを解明するための実験データを取得し、データ解析を進めて成果発表につなげる。 1.標的装置、真空槽設計・製作:初年度に製作したテスト機を用いてインド・TIFRのグループと共同でテスト実験を行う。この実験でフォイルの熱変形に対する位置フィードバック機構のテストも行い、必要に応じた改良を施す。 2.散乱粒子検出器開発:初年度に製作した荷電粒子検出器を用いて原子力機構タンデム加速器施設、阪大RCNPサイクロトロン施設での実験を行う予定。 3.ガンマ線検出器系の整備:日米の共同研究者と緊密な連絡を取り合い、CAGRA国際共同プロジェクトを進めてCAGRAクローバーGe検出器アレイを構築する。同時に検出器の保守・メンテナンスを引き続き行う。 4.データ収集系の高速化:荷電粒子検出器からの高速データ取得のためデジタルデータ収集系を準備し、実験に使用する。高計数率で測定する際に発生する信号ベースラインの変動を補正して高分解能を維持するため、信号波形データ解析による補正を可能とするための新たなファームウェアを実装して使用する。 これらの実験準備を進めた上で、まず安定核30Si,32S,40Caを対象にRecoil in Vacuum(RIV)法の実証実験を行う予定。その結果をもとに不安定核へ応用し、系統的データを取得して殻構造変容メカニズム解明を目指す。
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