研究課題
本研究は中性子過剰核における殻構造変容の起源を解明する事を目的としている。そのために殻構造の微視的構造を直接反映する物理量である不安定核の磁気モーメント測定法を開発し、ガンマ線検出器や新たに開発する実験装置を用いて多様な原子核で核分光実験を実施し、系統的な研究から変容メカニズム解明を目指すものである。本年度は装置開発、検出器の整備を進め、インド・タタ基礎研究所(TIFR)、中国近代物理学研究所(IMP)、オーストラリア国立大学(ANU)や原子力機構(JAEA)、理化学研究所での実験の検討を行い、実験を実施した。1.プランジャー装置開発:磁気モーメント測定に必要な原子核反応による高磁場発生のためRecoil in Vacuum(RIV)法を利用するが、高磁場中の歳差運動からのガンマ線の角度相関を時間の関数として得るために標的とその下流に配置する荷電リセットフォイル間の距離を高精度で変えられるプランジャー装置の開発を進めている。今年度TIFR、IMPのグループと共同でプランジャー装置開発を進めた。2.散乱粒子検出器開発:標的での非弾性散乱後に放出されるガンマ線を測定する際のビームの散乱角度に応じたドップラーシフトを補正して高分解能ガンマ線測定を実現させるため散乱粒子を高い位置精度で検出する必要がある。高強度のビームに耐える新たな検出器開発が必要となり、CsIシンチレーターを用いた荷電粒子検出器の設計を進めることができた。3.ANUやJAEAで殻構造変容を理解するために重要な実験データを取得し、解析結果を発表することができた。質量数40領域原子核の殻構造変容解明に向けたANUとの共同実験について議論・検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究実施計画として研究に必要な装置開発に関して以下の項目を計画していたが、概ね予定通り進めることが出来た。1.プランジャー装置開発:IMP, TIFRグループと標的-荷電リセットフォイルの位置を高精度で変えられるプランジャー装置の共同開発を進める事が出来た。テスト結果、予定通りの性能を得ることができ、実験で得られたデータの解析を進めている。2.散乱粒子検出器開発:大強度ビーム使用のためにCsIシンチレータを用いた散乱粒子検出器開発の設計を行った。3.ガンマ線検出器系の整備:実験に使用するGe検出器の保守・メンテナンスを進める事ができた。米国・中国の研究者と定期的なコンタクトを取り、CAGRA国際共同プロジェクトについて議論・検討を進めた。4.ANU、JAEAでいくつかの質量領域で原子核の殻構造変容を理解するために重要なデータを取得し、データの解析結果を発表することができた。
今後は以下の項目にあげた標的装置、散乱粒子検出器の開発を進め実験準備を行う。また国内外の加速器施設を利用したテスト実験、本実験を行う。これにより中性子殻構造変容メカニズムを解明するための実験データを取得し、データ解析を進めて成果発表につなげる。1.標的装置開発:製作したプランジャー装置を用いてTIFR、IMPのグループと共同で実験を行う。この実験でフォイルの熱変形に対する位置フィードバック機構のテストも行い、必要に応じた改良を施す。2.散乱粒子検出器開発:荷電粒子検出器の開発を進め、TIFR、原子力機構タンデム加速器施設、阪大RCNPサイクロトロン施設等での実験を行う予定。3.ガンマ線検出器系の整備:日米中の共同研究者と緊密な連絡を取り合い、CAGRA国際共同プロジェクトを進めてCAGRAクローバーGe検出器アレイを構築する。検出器の保守・メンテナンスも引き続き行う。4.データ収集系の高速化:荷電粒子検出器からの高速データ取得のためデジタルデータ収集系を準備し、実験に使用する。これらの実験準備を進めた上で、Recoil in Vacuum(RIV)法の実証実験を行う予定。その結果をもとに不安定核へ応用し、系統的データを取得して殻構造変容メカニズム解明を目指す。
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