研究課題/領域番号 |
17H02894
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
早田 次郎 神戸大学, 理学研究科, 教授 (00222076)
|
研究分担者 |
野海 俊文 神戸大学, 理学研究科, 特命助教 (30709308)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 自発的対称性の破れ / 統計的非等方性 / 低エネルギー有効理論 |
研究実績の概要 |
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)観測衛星WMAPによって、CMB温度揺らぎに統計的非等方性などの異常な性質(CMBアノーマリー)が発見された。そのような中、我々は非等方性の生成機構を発見し、CMBアノーマリーの理解に貢献した。本研究では、自発的対称性の破れという観点から、さらにこの研究を発展させ、多様なCMBアノーマリーの物理的機構を明らかにする。その研究成果をもとに新たな現象を予測し、観測の将来計画に指針を与える。さらに、CMBアノーマリーの背後にある初期宇宙を支配する究極理論を探求する。 本年度は、研究協力者であるGary Shiu教授と菅野優美バスク大学研究員を招聘して、今後の共同研究に関する議論を行った。インフレーション中の回転対称性の破れに起因する統計的非等方性を調べるために、回転対称性の破れに付随する Nambu-Goldstone ボソンと原始密度揺らぎの有効作用を構成した。その後、それをもとに四重極的非等方性の普遍性を明らかにした。また、観測に対する予測とデータの比較検討を行うことで低エネルギー有効理論にどのような制限が得られるのかを検討した。この成果は、近々、論文として発表する予定である。さらに、研究協力者である大学院生の伊藤とともに、定数非等方性を持った厳密解を発見した。これは、有効理論の構築の際、指針を与える重要な成果であった。 本研究は、対称性の破れと低エネルギー有効理論との関係を広く研究し、他分野との交流を推進することも目的としていた。今年度は東工大の山口教授をお招きして、低エネルギー有効理論に関連する講義をしていただいた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自発的回転対称性の破れに伴う南部・ゴールドストーンモードに対する低エネルギー有効理論の構築に取り組み、それをもとに四重極的非等方性の普遍性を明らかにするという研究目標はほぼ達成された。また、観測に対する予測とデータの比較検討を行うことで低エネルギー有効理論にどのような制限が得られるかの検討も進めている。このように、期間中に有効作用の構成には成功したが、対称性と無矛盾な相互作用が予想以上に多く存在した。そのためどのクラスの模型に絞って現象論的解析を行うかを決定するのに時間を要し、当初の計画よりやや遅れている。そのかわり、回転対称性以外の対称性の破れに関する研究が進んでいる。さらに、定数非等方性をもったインフレーションの厳密解の発見に成功している。これは、想定外の成果であり。このように、着実に研究成果があがっている。また、研究協力者との打ち合わせも順調であり、他分野との研究交流も始めた。全体としては、研究はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、遅れ気味であった研究テーマ、構築した低エネルギー有効理論をもとに、統計的非等方度の具体的な表式、テンソルと曲率揺らぎの相関、非ガウス性を計算し、2010年に得られた渡辺、菅野、早田の結果を含む理論であることを証明を完成させる。具体的には、今年度の前半で、これまでに構成した作用を用いて原始密度揺らぎのスペクトルを決定し、その結果を論文として出版する。後半では原始重力波を含むスペクトルまでに解析を広げる。また、それらをPlanck等の観測データと比較し、低エネルギー有効理論のパラメータへどのような制限が得られるのかを明らかにしていく。 回転対称性以外の場合へ低エネルギー有効理論を拡張する研究をさらに進めていく。また、未解明のCMBアノーマリーの物理的機構の解明に取り組んでいく。 さらに、他分野との交流を推進するために、素粒子論、物性理論、ハドロン物理の各分野から第一線の研究者を招聘し、講義をしていただく。
|