研究課題/領域番号 |
17H02895
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
吉村 太彦 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (70108447)
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研究分担者 |
田中 実 大阪大学, 理学研究科, 助教 (70273729)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / アクシオン / ランタノイドイオン / 磁気共鳴 / Er / フラーレン / ニュートリノ質量 |
研究実績の概要 |
原子物理実験の手法を利用して未知の素粒子アクシオン探索を行う実験方法の確立を目指してきた。アクシオンは宇宙暗黒物質の最有力候補の一つであり、銀河内数密度は1cc当たり10の13乗個になるが、物質との相互作用が極めて小さく、通常は地球を貫通する。本年度は、ランタノイドイオンを母体結晶に内包させた標的を用いたとき、アクシオン発見とその質量測定の目標に対して測定量の同定と測定頻度の評価を行った。すでにエネルギーレベル間隔、輻射崩壊率の公表されている、YAG母体にドープした三価のErイオンに適用して、ラマン散乱に伴い誘発される印可磁場中での銀河アクシオン吸収と放出の計算を完了し、論文を作成中である。Er:YSO 結晶をFTIR, tunable laser で照射して 4K 低温で基礎分光実験を岡山大学で実施した。温度依存性を利用して、遷移レベルの同定を行い、先行研究との比較を行っている。 個体密度に近い標的数を確保する別な手段として、フラーレン内包金原子のニュートリノ質量分光法による事象測定率の計算を完了した。論文を専門誌に投稿し、公表された。この仕事は、インド、スウェーデンの研究者との国際共同研究の成果である。東工大グループとは内包金、銅原子等のエネルギー準位の変化をシミュレーションする研究を行っている。興味ある成果が出ており、論文作成の方向で検討しているが、コロナ禍で出張ミーティングが頻繁に行えない状況が発生した。 年度内にパドヴァ大学グループとアクシオン探索法の議論を行い、共同実験に向けた準備をしている。この研究成果の一部をミュンヘン工科大学のアクシオンワークショップで発表した。また、ニュートリノ質量分光法の研究成果をトレントのニュートリノ質量国際会議で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年2月にイタリアパドヴァ大学グループと議論を行い、成果をミュンヘン工科大でのアクシオンワークショップで講演した。 さらに、岡山大学の所属研究室実験グループメンバーと共同で、Er:YSO を購入して、基礎分光実験を開始した。常温とヘリウム温度でのFTIR、レーザー吸収実験を用いて、多くのレベルを見つけ、量子数を同定した。これらは過去に行われた実験結果と整合するが、温度変化による線幅の変化も測定することに成功した。線幅の温度変化はおおむね理論予測と一致するが、完全には理解できない特徴もあり、その解明を進めている。 東工大斎藤グループ、理研、近畿大との共同研究は年度末に理論計算の取りまとめを行う予定であったが、コロナ禍の影響で出張をキャンセルせずをえず、成果とりまとめが遅れている。東京出張が可能になればミーティングを再開したい。 東工大Das教授、東洋大、マルメ大との共同研究では、フラーレン内包の金原子のニュートリノ質量分光スペクトル計算を完了し、論文を専門誌に公表した。
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今後の研究の推進方策 |
候補結晶を購入するか、国内の共同研究者(東北大在籍)に結晶育成を依頼する。結晶が手に入れば、低温基礎分光実験を岡山大学で行う。ニュートリノ質量分光とアクシオン探索の双方にベストなランタノイド内包結晶の確定を目指して、パドヴァグループと共同開発研究を行う。パドヴァ大学のポスドクを岡山で雇い、岡大の若手ポスドクをパドヴァに派遣する。線幅の狭い母体結晶を見つけるのが最重要課題であり、候補の結晶をパドヴァと分担して分光実験を実施する。レーザー作成は岡大の得意とする分野であり、実りある開発実験が期待できる。
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