研究課題/領域番号 |
17H02904
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
三部 勉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (80536938)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ミュオン / ミュオニウム / 異常磁気能率 / 電気双極子能率 |
研究実績の概要 |
ミュオニウムは正ミュオンと電子から構成されるレプトン2体束縛状態である。熱エネルギーのミュオニウム(超低速ミュオニウム)の電子を剥ぎ取りさいかそくすることで超低エミッタンスミュオンビームが実現できる。これは新しいミュオン異常磁気能率(g-2)・電気双極子能率(EDM)の精密測定を可能とするが、ボトルネックは低い正成功率である。申請者らは超低速ミュオニウムを従来より約10倍高い効率で生成する方法を開発した。本課題では新しい穴加工方法を導入することでさらに高効率かつ高密度で超低速ミュオニウムを生成する方法を開発する。 今年度は、熱エネルギーのミュオニウムを効率良く生成する方法の開発を行った。2017年7月から約1ヶ月の間、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学及び附設原子核物理研究所(TRIUMF)に滞在した。ブリティッシュコロンビア大学先端分光イメージング研究室(LASIR)において、ミュオニウム生成物質として用いるシリカエアロゲルにレーザーアブレーション法で穴加工・溝加工を施し、加工条件を系統的に変化させたサンプルの生成に成功した。これをブリティッシュコロンビア大学キャンパス内にある加速器実験施設であるTRIUMFに持ち込み、そこで利用できるミュオンビームに照射し、真空中での熱ミュオニウムの生成収量を測定した。25サンプルについてミュオニウムの生成データを取得することができた。今回製作した新しいサンプルについてもこれまでと同程度の収量が得られることがわかり、懸念されていたサンプル作成の再現性が確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに、穴加工のパラメータ(穴系・ピッチ・深さ)を系統的に変化させたサンプルの作成に成功、ミュオニウム生成収量の測定が実施できた。収量のパラメーター依存性はほぼ予想通りの傾向を示すことがわかった。加えて、弱い磁場中での測定を行い、真空中でのミュオニウムのスピン歳差運動を測定することができた。これによって、真空中に放出されたミュオニウムがスピン偏極していることを確かめた。また、およそ50時間にわたって同一サンプルのデータを収集し、ミュオニウム生成収量が時間とともに変化しないことを確かめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度に取得したデータに基づき、ミュオニウム生成に関する現象論的モデルを構築する。また、過去にJ-PARCで得たデータとの比較を行い、矛盾がないかどうか確かめる。データからスピン偏極度の導出を試みる。これらをまとめて、学術論文として出版する。本研究のアプローチと比較するため、スイス・PSIで開発されているミュオン冷却方法について調査・検討を行う。
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