研究課題/領域番号 |
17H02906
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
出渕 卓 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, グループリーダー (60324068)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 格子場の理論 / ハドロン物理 / ミューオンの異常磁気能率 / 素粒子標準模型 / 量子色力学 / 量子電磁気学 |
研究実績の概要 |
ミューオン異常磁気能率のハドロン寄与の計算に関して、2017年度(2018年への繰り越し分を含む)に行ったことは以下の通りである:
ハドロン真空偏極(Hadronic Vacuum Polarization; HVP)寄与 について、自然界に対応する軽いクォーク質量点を取ることによってカイラル外挿の誤差をなくした格子計算を行った。また格子間隔を2種類取り、離散誤差を取り除いた。また非連結クォークループを含んだ寄与と光子の寄与(量子電磁委からの寄与)チャームクォークからの寄与をも計算した。この結果1%強の総誤差の精度を達成した。さらに、電子・陽電子衝突実験からのハドロン生成断面積 (R比)と、格子計算の分散関係(ユニタリティ-)をチェックし、格子計算とR比の結果を複合させることによって、最も正確なHVP寄与の決定を行った。技術的な進展として、クォーク伝搬関数の固有ベクトルを理論の局所性(QCD coherency)を用いて実格子上で固まった部分(ドメイン)で切り貼りすることによって計算機メモリを10倍程度圧縮することによって、限られた計算資源で目的とする計算を達成した。
ハドロン光光散乱(Hadronic Light-by-Light; HLbL)寄与について、アップ、ダウン、ストレンジの3種類のクォークの質量が等しい SU(3)F 対称性が自然界では破れているがこの破れはハドロンの典型的なエネルギースケール(300 MeV程度)に比べて小さいことに注目し、この対称性の破れがないときのクォーク連結ダイアグラムからくる主要となる寄与と、次に主要となるクォーク非連結ダイアグラムを二つ含む寄与の2種類の寄与の計算を行った。系統誤差を抑えるために、ミューオン・光子の伝搬関数を有限格子間隔と体積上のもの(QED_L) と連続理論の無限体積版(QED_infty)の両方を用い、また格子間隔を合計4種類、体積を2種類について行った。クォークの質量はすべての格子間隔、体積で物理的なクォーク質量の計算である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HVPに関しては、非連結クォークダイアグラムや電磁気効果を取り入れ計算を遂行することができ、出版時に最も正確なHVP寄与の決定を行うことができた。対象とする量子色力学が持つ局所性に着目し実格子上のドメイン毎に固有ベクトルを「切り貼り」することによるドメイン分割法が思いの外良く働き、今までの計算でネックとなっていた計算機メモリが10分の一程度になったため計算が思いの外進んだ。
HLbLに関しては、統計誤差を電磁カレントを格子の(運動量ではなく)実座標空間上で確率的に配置し、寄与の大きいカレント間が近い短距離部分をより頻繁に計算するモンテカルロ計算を行うことによって飛躍的に統計誤差を下げることができた。レプトン、光子の伝搬関数として連続理論、無限体積のそれを使う QED_infty 法を導入することによって、今までの QED_L法に比べて有限体積効果を指数関数的に抑制できるようになった。また、これには電磁カレントの保存則と部分積分を使って、長距離部分の寄与と短距離部分の寄与を置き換える新方法も用いたことも重要であった。
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今後の研究の推進方策 |
HVP寄与に関しては 実験で決定されるR比と合わせず、純粋に格子理論だけで目的とする 0.25% の総誤差を達成することが目標となる。これができれば、R比の実験が異なる実験によって完全に一致しておらずどこまで誤差を下げられるのか、見積もられている誤差が正当なのかといった難しい問題に依存しなくて良くなる。このために 格子上に目的とする点状の電磁カレントを置くだけでなく、それと量子数が等しい、広がった電磁カレントや2体の擬スカラーカレント(I=1に2体π中間子に対応する)を配置しこれらの間の時間発展を計算することによって、問題となるチャンネルのエネルギー固有状態の基底状態と低エネルギーの励起状態とその状態と点状電磁カレントの結合(QCD行列要素)を、一般化固有値問題(Generalized Eigenvalue Poroblem; GEVP)求める。これにより統計誤差が増大するカレント間が遠距離である寄与の誤差を下げるという GEVP法を行う。
HLbLに関しては、同様にカレント間が遠距離の寄与の統計誤差をさらに減らす必要がある。4つの電磁カレントがそれぞれ互いに距離の近い、二つずつのグループにまとまりグループ間の距離の大きい寄与は間に中性π中間子が伝搬する寄与で記述されるはずなので、この中性πからの寄与を格子で別に計算し、重複なく足し合わせることによって誤差を下げる。また、現在は2種類の主要となる寄与を計算しているが、より寄与の小さなクォーク非連結ダイアグラムの寄与(2種類ある)も計算する必要がある。
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