2021年はじめに発表が予定されているフェルミ研究所でのミューオン粒子の異常磁気能率 g-2 の新しい高精度の測定結果が、素粒子標準模型の理論値に合致するのかを調べるため、ハドロンからのg-2への寄与の格子色力学計算を行った。20年前のブルックヘブン研究所の結果では、当時の最も正確な理論値と、実験・理論の誤差見積もりの4倍程度実験値が大きいという結果が出ており、実験・理論ともに精度と誤差の評価の信頼性を上げることが求められている。
電磁相互作用の2次にあるミュー粒子から出た一対の光からハドロンが生成・消滅する過程であるハドロン真空偏極(Hadronic Vacuum Polarization)の計算に注力し、特に格子から生成されたハドロンがまた消滅する前に、さらに光子を放出・吸収する量子電磁気の効果(3次の効果)までを直接格子計算によって取り入れ、公開発表される実験結果に白黒をつけるために必要な0.4%の精度を目指して、完全な統計・系統誤差の解析を行った。統計精度を上げるために、ハドロンのエネルギーの低い状態である2体のパイ中間子の状態の4状態からの寄与を別個に精度良く計算し、それ以外の状態からの寄与と別々に足し上げる。このエネルギー固有状態を解くために目的とするハドロンの電流間のグリーン関数のみならず同じ量子数を持った演算子間のグリーン関数の一般化固有値問題を解いた。系統誤差の中には、格子計算を行う時空の体積が有限であることによる体積誤差、格子間隔が有限であることによる連続極限外挿からの誤差、ハドロンの電磁相互作用の強さの校正(繰り込み)などが含まれる。結果をまとめ、また格子計算以外を含む他のグループと共同で現時点での最も正確なミューオン異常磁気能率の理論値のまとめを発表した。
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