研究課題/領域番号 |
17H02908
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長谷 宗明 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40354211)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光物性 / トポロジカル絶縁体 |
研究実績の概要 |
本研究では、トポロジカル絶縁体(Topological Insulator: TI)における低波数ベクトル領域のコヒーレント表面フォノンを高感度に観測し、表面における電子―フォノン相互作用に関する知見を得ることを目的としている。また、大振幅コヒーレントフォノン励起によるTIのバンドギャップ変調の可能性を探り、フォノンによるトポロジカル絶縁体―ノーマル絶縁体間の量子相転移の観測を目指している。典型的なTIであるSb2Te3では4 QL(5原子からなる1層をQuintuple Layer: QL と定義する)以下で、またBi2Te3では3 QL以下で3次元TIから2次元TIへと量子相転移すると考えられており、2次元TIではエッジにのみディラック・コーンで特徴付けられるスピン偏極した金属状態が存在する。 今年度は、現有のレーザー光源であるフェムト秒レーザー発振器(中心波長830 nm, パルス幅20 fs)を用いて、Sb2Te3およびBi2Te3の高配向多結晶薄膜における、膜厚に依存した(すなわち3次元TIと2次元TI状態における)電子―フォノン相互作用を評価した。Sb2Te3およびBi2Te3を1 nm(1 QL)~10 nm(10 QL)の膜厚範囲でマグネトロン・スパッタリングにより高配向多結晶薄膜を作製し、絶縁体の酸化防止膜を20 nm付けて試料として用いた。また測定は室温かつ大気中で行った。ポンプ-プローブ型時間分解過渡反射率測定の結果、膜厚が2 nm以上の試料において明瞭なコヒーレントフォノン信号が得られ、2次元TIから3次元TIへと量子相転移する膜厚(3 ~ 4 QL)よりも厚い膜厚の3次元TI試料に対してフーリエ変換スペクトルの時間変化を追うことにより、Diracプラズモンとバルクフォノンの相互作用の結果生じる動的なファノ干渉の観測に成功した。またファノ干渉効果の解析からDiracプラズモンのコヒーレンス時間を200フェムト秒と見積もった。この成果は米国物理学会のPhysical Review B誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は当初の目標通り、大気中かつ室温において、典型的なTIであるSb2Te3やBi2Te3の様々な膜厚の試料においてコヒーレントフォノン測定を行い、信号の取得に成功している。さらに、3次元TIから2次元TIへと量子相転移する膜厚において、3次元TI状態でのみ上述した動的なファノ干渉が観測されること、そして励起光強度依存性(電子密度依存性)が見られることから、その原因が表面のDiracプラズモンに由来することを議論することができた(Physical Review B誌で公表)。観測したフォノンは、その周波数が大きくシフトしていないことから、現状では表面フォノンよりもバルクフォノンの可能性が高いと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上述したとおり、今年度観測に成功したフォノンは、その周波数が大きくシフトしていないことから、表面フォノンよりもバルクフォノンの可能性が高いと考えている。従って、今年度導入した光電子増倍管(PMT)を用いて、計画通り表面第二高調波(SHG)発生による表面フォノン観測の実験を次に進める予定である。
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