研究課題/領域番号 |
17H02911
|
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
松井 文彦 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 主任研究員 (60324977)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 光電子回折 / 光電子分光 / 軌道磁気量子数 / 表面原子構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、光電子回折法をベースにした独自の軌道磁気量子数計測法の開発と測定装置の整備、様々な材料の表面を舞台にした低次元電子物性研究への適応を目的とする。軌道磁気量子数は局所的な電子運動の対称性と結びつき、様々な電子物性の発現と密接な関係にある。しかし、こうした物性発現の鍵となる軌道磁気量子数を計測する手段がこれまでなかった。 2018年度はNiおよびCuのオージェ電子回折の円二色性についてのデータ解析を終え、前者はPhys. Rev. B誌に論文が掲載された。オージェ電子回折の前方収束ピークに大きな方位の二色性が観測された。ここから軌道磁気量子数を算出した。現在理論化との共同研究が進み、これをNiやCuの円二色性のデータをサポートする理論研究の成果が出てきている。 2018年に分子研に異動し、新たに真空紫外光・軟X線の光電子分光ビームラインでの広角取込み電子分析器の立ち上げに従事した。特に軽元素のK殻吸収端における共鳴光電子分光の研究が進んだ。ビームラインの光学系に付着した炭素系の汚れを酸素ガス中の光焼き出しで除去することでC K吸収端の共鳴光電子分光測定が実現した。グラファイト単結晶を用い、価電子帯共鳴光電子分光によるパイバンドの角度分布とC KLLオージェ電子回折の角度分布が異なる様子を確認することができた。 嫌気性試料の取り扱いを行うために独自のグローブボックスが立ち上がり、大気暴露なしに他施設で作製した試料を真空分析槽に導入し測定に成功した。 またグラファイトの価電子帯kz分散の実験・理論研究がまとまり、Phys. Rev. Bに掲載された。分子研にて化合物層状物質MoSe2のkz分散の場合について比較研究に展開することができた。価電子帯の元素選択的な原子軌道とその線形結合の情報が得られる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年に分子研に異動し、研究室の立ち上げに時間がかかったが、同時に新たに真空紫外光・軟X線の光電子分光ビームラインでの広角取込み電子分析器の立ち上げに従事することになり、直線偏光による光電子回折測定データをこれまでの円偏光光電子回折の知見と比較することができるようになった。特に軽元素のK殻吸収端における共鳴光電子分光の研究が進んだ。ビームラインの光学系に付着した炭素系の汚れを酸素ガス中の光焼き出しで除去することでC K吸収端の共鳴光電子分光測定が実現した。グラファイト単結晶を用い、価電子帯共鳴光電子分光によるパイバンドの角度分布とC KLLオージェ電子回折の角度分布が異なる様子を確認することができた。 2017年度より繰り越した予算で嫌気性試料の取り扱いを行うために独自のグローブボックスが立ち上がり、一時的な遅れを取り戻すことができた。大気暴露なしに他施設で作製した試料を真空分析槽に導入し測定に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
エネルギー分解能の良い光電子分光のデータを取得するためには試料温度を極力下げることが有効である。計画通り、試料冷却のためのクライオスタットを導入する。液体ヘリウムの入手がこれまでの大学の環境では困難であったが、異動先の分子研ではHe回収ラインが整備されているので比較的容易に試料冷却系を構築できる見込みである。 これまで小型分析器の取り込み角は+/-50°程度であったが、これを広げる改良を続ける。 UVSORの円偏光軟X線ビームラインでの実験を計画し、本課題を推進する。
|