研究課題/領域番号 |
17H02916
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石原 純夫 東北大学, 理学研究科, 教授 (30292262)
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研究分担者 |
山内 邦彦 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00602278)
堀田 知佐 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50372909)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 励起子絶縁体 / 軌道自由度 / 電子相関 / 軌道自由度 |
研究実績の概要 |
[1] 強相関励起子絶縁体における帯磁率においてスピン軌道相互作用を取り入れた解析を実施した。拡張された二軌道ハバード模型においてスピン軌道相互作用を取り入れた模型の一般化と解析のための定式化を行った。これにより励起子絶縁体相において帯磁率が著しく増強されることが見いだされた。 [2] 励起子絶縁体における光学応答について二軌道ハバード模型の解析により詳細に調べた。ここでは局所電子間相互作用と長距離秩序を同時に取り扱うことのできる変分クラスター法を用いた。光学応答の計算には頂点補正を考慮したダイアグラム法により解析を行った。計算の結果、励起子絶縁体相特有の光学スペクトルピークを見出し、この強度が励起子絶縁体の秩序変数を強く反映することを明らかにした。 [3] 励起子絶縁体の候補物質であるコバルト酸化物に注目し、第一原理電子状態計算を行った。BiCoO3はBiFeO3と同じく反強磁性と強誘電性(焦電性)を同時に示すマルチフェロイック物質であり、それらの固溶体が単斜晶結晶構造をとり、巨大な圧電効果が生じることが期待されていたが、現在まで圧電効果に関する実験報告はなかった。そこで本研究では、第一原理計算手法を用いてBi(Co,Fe)O3の電子状態を調べ、磁性、電気分極、圧電定数を計算した。 [4] 励起子絶縁体の多軌道モデルと同等のスピンモデルであるダイマーダンベルモデルにおける量子効果を厳密対角化や解析手法を駆使して調べ、2軌道の混成状態に相当するBEC相(励起子相)においてスピンネマティック相が実現することを明らかにした。また量子多体系の有限温度の物理量を求める際に有限サイズ効果を抑える方法論を開発した。 [5] 2次元反強磁性体においてマグノンにおけるラシュバ=ドレッセルハウス効果が出現すること、および異常熱ホール効果がSU(2)ゲージマグノンにより出現することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[1] 励起子絶縁体相は50年以上前から理論的に可能性が指摘されており、近年実験的検証と共に盛んに研究が進展している。この研究分野における一つの課題として挙げられるのは、励起子絶縁体相の同定方法を確立することである。本研究課題でピン軌道相互作用の効果により励起子絶縁体相で帯磁率が著しく増大することが明らかになった。また光学応答の解析においては、励起子絶縁体相に特徴的なピーク構造が見いだされ、この強度が励起絶縁体の秩序変数を反映することを発見した。これらの理論結果は物質が励起子絶縁体相にあることの同定手段として使えることを意味しており、より精査することで実験的な検証を提案することが可能となる。 [2] 今年度の計算により単斜晶構造Bi(Co,Fe)O3 がP = 160μC/cm2という大きな自発分極をもつことが明らかになった。しかしながら、PZTの代替物質と期待されるほどの圧電定数を示すことはなかった。その理由として、この物質の強い極性構造歪みが、応力下での分極の変化を妨げているのではないかと考えられる。また、スーパーセルを用いた計算ではフェリ磁性が安定化した。FeおよびCo原子の局在スピン間相互作用は面内で強い反強磁性的であることが明らかとなった。 [3] 2次元量子多体系において基底状態の相図を精密に求めることは容易ではないが、今回ボソン変換と有効モデルとの比較、アンダーソンタワー解析という多角的な方法で熱力学極限での長距離秩序相を同定、さらに相境界のほぼ厳密な解析を数値計算と組み合わせて行うことが可能となった。この方法により量子揺らぎが重要な役割を果たす系(励起子系とも対応)を正確に取り扱うことができたことから、今後他の系においても類似した取り扱いをする基盤の構築が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
[1] 励起子絶縁体相におけるスピン軌道相互作用に起因した帯磁率の著しい増大効果について、その特徴の詳細を解析すると共に起源の物理的意味を明確にする。拡張された二軌道ハバード模型から導出した有効擬スピン模型において、スピン軌道相互作用は擬スピンのy成分に関する相互作用として表現される。物理的な解釈が比較的容易な平均場近似を用いることで、電気磁気多極子秩序とその外場応答の視点から帯磁率増強の物理的意味を明確にし、その実験的検証を目指す。これにより励起子絶縁体の同定が可能になる。 [2] 励起子絶縁体におけるバンド交差とトポロジカル相の可能性について理論的な検証を行う。ここでは蜂の巣格子上の拡張されたイオン性ハバード模型を対象として、これを平均場近似法ならびに厳密対角化法を用いて数値的に解析する。伝導バンドと価電子バンドのエネルギー準位を調整することで励起子絶縁体相におけるトポロジカルに非自明な電子バンド構造を探る。 [3] Bi(Co,Fe)O3において、より大きな圧電効果を得るために、元素置換のシミュレーションを試みる。Bi原子をLaやYなどに置換することで強誘電性および極性構造歪みを抑え、圧電定数が大きくなる物質の設計を行う。また、反転中心の破れた物質では運動量空間における特徴的なスピン分極(ラシュバ効果)が生じる。今後、磁気空間群を用いたラシュバ効果の研究を行う予定である。 [4] これまでS=1/2のモデルにおけるスピンネマティック相に着目していたが、これをより大きなスピンの系(S=1,3/2)で実現し、また熱力学量を用いてこの特異な状態を同定する方法を構築することを計画している。後者は励起子絶縁体を、実験的に同定する方法を実験側に提示することにもつながる課題である。
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