研究課題/領域番号 |
17H02917
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木村 尚次郎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (20379316)
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研究分担者 |
川股 隆行 東北大学, 工学研究科, 助教 (00431601)
田中 秀数 東京工業大学, 理学院, 教授 (80188325)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電気磁気効果 / 量子スピン系 |
研究実績の概要 |
結合ダイマー系KCuCl3に関して、直線偏光を用いた強磁場ESR測定を行い基底シングレット状態から励起トリプレット状態への光学遷移が振動電場によって生じていることを明らかにした。結晶の[010]方向に外部静磁場を印加し、これと平行に電磁波を照射するFaraday配置と、直線偏光した電磁波の照射方向と外部静磁場が垂直なVoigt配置で実験を行ったところ、KCuCl3のトリプレット励起のAccoustic及びOpticalの二つのモードが、それぞれ互いに直交する振動電場によって励起されることが分かった。観測された偏光依存性についてKCuCl3の対称性に基づいた解析を行い、この遷移が我々が提案しているようにベクトルスピンカイラリティー由来の電気分極発生機構によって引き起こされていることを確かめた。また、強誘電が現れるTlCuCl3の磁場誘起マグノンボースアインシュタイン凝縮相において、電磁波の照射方向の反転によって電磁波吸収強度が変化する方向二色性を 凝縮相で現れる南部ゴールドストーンモードの光励起による電磁場吸収について観測した。50GHzのマイクロ波を用いたESR測定で観測したこの方向二色性による電磁波吸収量の変化は約40%であった。この様な二色性が電磁波の照射方向の反転だけでなく、電気分極や磁場の反転によっても生じることを確かめた。さらに、強誘電が極めてソフトなTlCuCl3では、低電界で電極反転を起こし電磁波が透過しやすい方向のスイッチングができることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
偏光を用いたサブミリ波によるESR測定は問題なく行うことができ、KCuCl3の振動電場励起によるシングレット-トリプレット励起を実験的に検証に成功した。さらにTlCuCl3に自発電気分極を整列、反転させるための電極を取り付けたマイクロ波領域の偏光ESR測定によって、ボース凝縮相における方向二色性を観測しその非相反スイッチングを見出すなど順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
TlCuCl3の南部ゴールドストーンモードの電磁波吸収が、電気分極や磁場、電磁波伝搬方向の反転によって40%程度変化する方向二色性が50GHzのマイクロ波ESR信号強度が観測されたが、これに関する理論計算からより低い20GHz付近では90%を超すような大きな方向二色性が期待されることが分かった。そこでH30年度はこの周波数帯の測定により、期待される巨大な方向二色性の観測を行う。また前年度に導入された高安定サブミリ波光源を用いたESR測定によって、KCuCl3のシングレット-トリプレット遷移の信号強度の偏光依存性の外部磁場の印加方向依存性の詳細を明らかにする。これとともに、KCuCl3のマグノンボースアインシュタイン凝縮相で現れると期待される強誘電のポーリング電場方向及び外部静磁場方向の依存性を測定し、この物質のベクトルスピンカイラリティーと電気分極を結びつける係数行列の各項を決定する。更に決定した係数行列から、シングレット-トリプレット間の電気双極子遷移確率を計算し、これとESRで観測した信号強度の依存性を比較して、ベクトルスピンカイラリティー由来の電気分極機構によってシングレット-トリプレット遷移が生じていることを定量的に検証する。
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